クルマバソウ

クルマバソウ：芳香を放つ、可憐な森のハーブ

クルマバソウ(学名: Galium odoratum)は、アカネ科ヤエムグラ属に属する多年草です。かつては近縁の属に分類されていましたが、現在はヤエムグラ属に位置付けられています。地下茎を伸ばして繁殖し、高さ20～30cmの直立した茎を持ちます。茎は四角形で無毛です。

特徴的な葉

クルマバソウの最大の特徴は、その葉のつき方です。6～10枚の葉が輪生しており、車輪のように見えることから「クルマバソウ」という和名が付けられました。葉身は狭長楕円形または倒披針形で、長さ1.5～4cm、幅0.3～1.3cmです。葉はやや厚みがあり、光沢を帯びています。表面の中脈が目立ち、縁と裏面には上向きの剛毛が生えています。葉の裏面と茎の節部には短い毛が生えています。この輪生する葉は、対生する2枚の葉と、残りの葉と同形の托葉から構成されています。

可憐な花と実

花期は5～7月です。茎の先端に2～3出状の集散花序を出し、4～12個の白い花を咲かせます。花冠は漏斗形で、直径2～5mm、先端は4裂しています。雄蕊は4個で、花冠筒部に付着しています。子房は下位で2室に分かれ、各室に1個の胚珠があります。果実は乾いた2個の分果からなり、外観上は1個の球形に見えます。分果には鉤状の長い毛が密生しています。同属のクルマムグラと似ていますが、クルマムグラの葉は薄く、乾燥すると黒色になるのに対し、クルマバソウの葉は厚みがあり光沢があり、乾燥しても淡緑色を保ちます。

分布と生育環境

日本では、南千島、北海道、本州に分布し、林内の木陰などのやや湿った場所に生育します。世界的には、朝鮮半島、サハリン、ヨーロッパ、北アフリカなど広い範囲に分布しています。

名前の由来と利用

和名の「クルマバソウ」は、車輪状の葉のつき方からきています。種小名odoratumは「芳香のある」という意味で、乾燥させるとクマリンによる甘い香りが漂います。この芳香を生かし、ベルギーでは、乾燥させたクルマバソウで香りをつけた「メトランク」という白ワインが作られています。

ヨーロッパでは「ウッドラフ」と呼ばれ、古くからハーブや民間薬として利用されてきました。リラックス効果、睡眠導入、健胃、利尿作用などがあるとされ、また、鎮痛、止血、肝機能改善にも効果があるとされています。防虫効果もあるため、葉を乾燥させたものをクローゼットなどに置くこともあります。ただし、妊娠中・授乳中、肝機能障害のある方、抗凝血剤を使用している方は使用を避けるべきです。

ドイツなどでは「ヴァルトマイスター」と呼ばれ、ビールやリキュール、ジュース、菓子類の風味付けにも用いられています。日本では、花や蕾を寿司の飾りとして使ったり、肉料理の付け合わせとして利用したりすることもできます。また、乾燥させたクルマバソウをホワイトリカーやウォッカに漬け込み、ハーブ酒を作ることも可能です。

参考文献

佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他編『日本の野生植物 草本III合弁花類』、1981年、平凡社
橋本郁三著『食べられる野生植物大事典（草本・木本・シダ）』、2007年、柏書房
門田裕一監修、永田芳男写真、畔上能力編『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花（増補改訂新版）』、2013年、山と溪谷社
大橋広好・門田裕一・木原浩他編『改訂新版 日本の野生植物 4』、2017年、平凡社
牧野富太郎原著、邑田仁・米倉浩司編集『新分類 牧野日本植物図鑑』、2017年、北隆館
米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名－学名インデックス」（YList）

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