クレイトス (ギリシア神話)

クレイトスについて

ギリシア神話において「クレイトス」という名前を持つ人物は複数存在し、それぞれ異なる血筋や物語に関連しています。中でも特に言及されることが多いのは、エジプト王アイギュプトスの息子、予言者メラムプースの孫であるマンティオスの息子、そして予言者ポリュイードスの息子、さらにはトラキア王シートーンの娘パレーネーの求婚者として知られる人物です。その他にもトロイア戦争に関連する数名のクレイトスが伝えられています。以下に主要な人物について詳しく述べます。

アイギュプトスの子クレイトス

このクレイトスは、古代エジプトを支配したという伝説的な王アイギュプトスの五十人の息子の一人です。彼の母はテュリアーとされ、ステネロス、クリューシッポスという兄弟がいました。アイギュプトスの息子たちは、叔父にあたるダナオスの五十人の娘たち、いわゆるダナイデスとの結婚を強いられました。この結婚は、父アイギュプトスの指示により、婚約者のダナオスの娘たちを殺害するという恐ろしい計画が隠されていました。クレイトスと彼の兄弟ステネロス、クリューシッポスは、それぞれクレイテー、ステネレー、クリューシッペーという、奇しくも彼ら自身と同じ名前を持つダナオスの三人の娘たちと結婚しました。しかし、彼らも他の多くの兄弟と同様に、結婚初夜に妻たちの手にかかって命を落としたと伝えられています。

マンティオスの子クレイトス

ホメーロスがその叙事詩の中で語るところによれば、このクレイトスは著名な予言者メラムプースの孫にあたり、マンティオスの息子であり、ポリュペイデースという兄弟を持っていました。彼は並外れて美しい容姿の持ち主であったとされ、その美しさゆえに暁の女神エーオースの心を捉えました。エーオースは彼に恋し、クレイトスを地上から自身の住まう場所へと連れ去ったと伝えられています。これは、神々が特別な人間を不死とするために連れ去るという神話上のパターンの一つです。クレイトスの家系からは、後にコイラノス、そして予言者ポリュイードスといった人物が輩出されました。ただし、地理学者パウサニアスの記述によれば、コイラノスはアバースの子であるとする異説も存在します。

ポリュイードスの子クレイトス

このクレイトスは、前述のマンティオスの子クレイトスの曾孫にあたる人物です。彼は、予言者ポリュイードスの息子であり、トロイア戦争にギリシア側で参加したエウケーノールや、姉妹であるアステュクラテイア、マントーといった兄弟姉妹がいました。このクレイトス自身に関する具体的なエピソードはあまり伝えられていませんが、有名な予言者の息子であり、トロイア戦争の英雄と血縁関係がある人物として、系譜の中で重要な位置を占めています。

パレーネーの求婚者クレイトス

トラキア地方を治めたとされる伝説的な王シートーンの娘パレーネーには、多くの勇士たちが求婚していました。シートーン王は当初、非常に残酷な方法で求婚者を選抜しました。それは、王自身に戦いを挑ませ、勝利した者には娘を与え、敗れた者は容赦なく殺すというものでした。このため、多くの求婚者が命を落としました。しかし後に、王は娘にも良き夫が必要であると考えを改めました。その頃、クレイトスとドリュアースという二人の有力な求婚者が現れました。王は二人に一騎打ちをさせ、勝利した者にパレーネーと自らの王国を与えるという条件を提示しました。パレーネーはクレイトスに心を奪われており、彼の勝利を願っていました。彼女の助けを得て、クレイトスは強敵ドリュアースに打ち勝ちました。こうしてクレイトスはパレーネーと結婚し、シートーンの王国を受け継いだとされています。

その他のクレイトス

上記の主要な人物の他にも、「クレイトス」という名前を持つ人物が神話や伝説の中で言及されています。例えば、ペイセーノールの息子で、トロイア戦争におけるトロイア側の武将ポリュダマースの配下として戦ったクレイトスは、ギリシア側の英雄テウクロスによって討ち取られたと伝えられています。また、アガメーストールとニュムペーの間に生まれたクレイトスもトロイア戦争に参加しており、こちらは名医マカーオーンの兄弟であるポダレイリオスによって討たれたとされています。これらの人物は主要な物語の脇役として登場し、短い言及にとどまることが多いです。

これらの「クレイトス」たちは、それぞれ異なる時代や地域、物語に属しており、その生涯や結末も様々です。彼らの存在は、ギリシア神話の広がりと多様性を示しています。

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