メラムプース

メラムプース（古希: Μελάμπους, Melampūs）は、「黒い足」を意味する名前を持つ、古代ギリシア神話における著名な予言者であり占い師です。アミュターオーンと、ペレースの娘（またはアバースの娘とされる）であるエイドメネーの子として生まれ、ビアース、アイオリアー、ペリメーレーといった兄弟姉妹がいました。彼は、ティーリュンスの王プロイトスの娘イーピアナッサとの間にアンティパテース、マンティオス、アバースを、あるいはメガペンテースの娘イーピアネイラとの間にアンティパテース、ビアース、プロノエー、マントーといった子孫をもうけました。

メラムプースは、自らの手で占術の体系を築き上げた人物とされており、さらに薬物療法や清めの儀式による癒しを初めて実践したことで知られています。彼の子孫からは、ポリュイードス、アムピアラーオス、テオクリュメノスなど、多くの優れた予言者が輩出されました。歴史家ヘーロドトスは、メラムプースがエジプト学に深く通じ、エジプトのディオニューソス（オシリス神と同一視されることもあります）の儀礼をギリシア世界に紹介したと記しています。また、有名な叙事詩人ヘーシオドスが、メラムプースを主題とする叙事詩を著したとも伝えられています。

神話に伝わる業績と逸話

メラムプースの生涯には、彼の並外れた能力を示す多くの神話的なエピソードがあります。

占術の習得

最初、彼はメッセーネー地方の都市ピュロス近郊に住んでいましたが、ネーレウスの勢力拡大に伴い田舎へと居を移しました。その頃、彼の館の前には一本の大きなオークの木が立っており、そこに一匹の牝蛇が子連れで巣くっていました。ところが、召使たちがこの牝蛇を殺してしまいます。メラムプースは憐れんで蛇の死骸を手厚く葬り、残された子蛇たちを養育しました。成長した子蛇たちは、感謝の証としてメラムプースが眠っている間に彼の両耳を舌で清めました。この不思議な体験の後、メラムプースは目を覚ますと、驚くべきことに鳥たちの鳴き声や会話が理解できるようになっており、この能力を基に未来を予言する術を瞬く間に編み出しました。その後、彼は犠牲獣の内臓を観察する腑分け占いも習得し、アルペイオス河畔で神アポローンに出会ったことで、比類なき予言者としての地位を確立したとされています。

兄弟ビアースのための奔走

彼の兄弟ビアースは、ネーレウスの美しい娘ペーローに心を奪われました。しかし、ペーローには多くの求婚者がおり、ネーレウスは最も困難な条件を出しました。それは、テッサリアー地方のピュラコスが、獰猛な番犬に厳重に見張らせている彼の牝牛の群れを連れてくることでした。ビアースは助けを求め、メラムプースに予言を依頼します。メラムプースは、自分がピュラコスの元へ行って牛を盗もうとし、捕らえられるだろうと予言しました。そして、およそ一年後に牛を手に入れて戻ってこられるだろうと告げました。予言の通り、メラムプースは盗みに入って捕まり、牢屋に入れられました。彼が不在の間、ネーレウスはメラムプースの財産を不当に浪費しました。一年が経とうとする頃、牢屋にいたメラムプースは、天井裏の虫たちの会話を聞き、屋根の梁が虫に食い荒らされ、今にも崩壊寸前であることを知ります。彼はピュラコスに牢屋の変更を願い出ると、ピュラコスはその申し出を聞き入れ、別の牢屋に移させました。すると間もなく、もとの牢屋は崩れ落ちたのです。

イーピクロスの治療

メラムプースの予言能力に驚嘆したピュラコスは、彼に息子のイーピクロスが子供を授かる方法を教えてほしいと懇願しました。メラムプースは、報酬としてピュラコスが所有する牝牛の群れを譲り受けることを条件に、その依頼を引き受けました。メラムプースが犠牲を捧げ、鳥たちを呼び集めると、一羽のハゲタカが飛んできて、イーピクロスの過去について語り始めました。ハゲタカによれば、昔、ピュラコスが牡羊を去勢していた時、血で汚れた小刀を幼いイーピクロスのそばに置きました。それを見たイーピクロスは恐れて逃げ出し、ピュラコスはその小刀を聖なる樫の木に突き刺したまま忘れてしまい、やがて樹皮が小刀を完全に覆い隠してしまったというのです。ハゲタカは、その樫の木から小刀を見つけ出し、その錆を削ってイーピクロスに十日間飲ませれば、子宝に恵まれるだろうと告げました。この予言を聞いたピュラコスは大いに喜び、約束通りメラムプースに牝牛の群れを譲渡しました。予言に従って小刀を発見し、その錆を飲ませた結果、イーピクロスにはポダルケースという息子が生まれたのです。こうしてメラムプースは、手に入れた牝牛の群れをネーレウスの元へ運び、兄弟ビアースがペーローと結婚することを可能にしました。

プロイトスの娘たちの狂気と癒し

ビアースの結婚を成就させた後、メラムプースはしばらくメッセーネー地方に滞在していましたが、やがてティーリュンスの王プロイトスの宮廷を訪れました。これは、プロイトスの娘たち（イーピノエー、イーピアナッサ、リューシッペーの三人）が、何らかの理由（ディオニューソスの儀礼を拒否したためとも、あるいは女神ヘーラーの木像を軽んじたためとも言われます）で発狂し、ペロポネーソス半島の各地を走り回っていたため、彼女たちを治療することを申し出るためでした。メラムプースは報酬として国土の三分の一を要求しましたが、プロイトスはこれを高すぎると考えて一度は断りました。しかし、娘たちの狂気はさらに悪化し、ついにはティーリュンスの他の女たちにも伝染し、彼女たちも子供を殺したり家を捨てたりして、王女たちの後を追って荒野をさまようようになりました。事態の深刻さを認識したプロイトスは、ついにメラムプースの要求を受け入れることにしました。ところが、メラムプースはここで要求を吊り上げ、さらに国土の別の三分の一を兄弟ビアースに与えることを求めました。プロイトスはしぶしぶこの新たな条件にも同意せざるを得ませんでした。メラムプースは屈強な若い男たちを召集し、神懸かったような狂乱の踊りを踊りながら、狂気の女たちを山からシキュオーンへと追い立てました。この追跡の最中に、プロイトスの長女イーピノエーは命を落としましたが、残された娘たちや他の女たちは、メラムプースによる清めの儀式を経て正気に戻りました。この治療の功績により、メラムプースはアルゴス地方に広大な国土を得てビアースと共に移り住み、プロイトスの生存した娘たちとそれぞれ結婚することになりました。

メラムプースは、その生涯を通じて数々の予言と奇跡的な癒しを行い、ギリシア神話における医療と占術の創始者としてその名を残しています。メガラー地方のアイゴステナ市には、彼の神域が設けられ、現在でも毎年例祭が催されていると伝えられています。

関連人物

ビアース（兄弟）
ネーレウス（ビアースの義父）
ペーロー（ビアースの妻）
ピュラコス（イーピクロスの父）
イーピクロス（治療した相手）
ポダルケース（イーピクロスの息子）
プロイトス（娘たちを治療した王）
イーピノエー、イーピアナッサ、リューシッペー（プロイトスの娘）
アポローン（占術に関係）
ディオニューソス、ヘーラー（狂気の原因に関係）
ポリュイードス、アムピアラーオス、テオクリュメノス（子孫の予言者）

参考文献

アポロドーロス『ギリシア神話』
ディオドロス『神代地誌』
パウサニアス『ギリシア記』
ホメロス『オデュッセイア』
高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』

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