クレマンソー (空母)

航空母艦クレマンソー (R 98)

クレマンソー（Clemenceau, R 98）は、フランス海軍が運用したクレマンソー級航空母艦の一番艦として歴史に名を刻んでいます。その艦名は、第一次世界大戦でフランスを率いた政治家ジョルジュ・クレマンソーに由来しており、同じ名を持つ先代は未成に終わったリシュリュー級戦艦の三番艦でした。

輝かしい作戦参加の歴史

現役期間中、クレマンソーはフランス海軍が実施した主要な作戦のほぼ全てに参加し、その存在感を示しました。1968年の太平洋展開を皮切りに、1970年代半ばのジブチ独立支援、1980年代初頭のレバノン内戦への介入、イラン・イラク戦争中の海上交通路防衛、そして1990年の湾岸戦争など、世界各地の紛争や緊張緩和の場で活躍しました。特に、1985年には近代化改装を受け、冷戦末期における北大西洋条約機構（NATO）を中心とする西側諸国の海軍航空戦力の底上げに大きく貢献しました。クレマンソーは冷戦の始まりから終わりまでを現役で戦い抜き、最終的に西側諸国が勝利を収める上で、その果たした役割は無視できないものでした。この近代化改装では、従来の100mm単装砲の一部を撤去し、対空ミサイルシステム「クロタル」の8連装発射機2基を搭載するなど、装備の更新も行われました。

退役とアスベストを巡る国際問題

ユーゴスラビア紛争への参加を最後に、クレマンソーは1997年に退役しました。後継艦である原子力空母「シャルル・ド・ゴール」の就役に伴うものであり、これにより21世紀に入ってからの対テロ戦争などに参加することはありませんでした。

退役後、当初は航空母艦として売却される可能性も模索されましたが、最終的にはスクラップとして解体されることが決定しました。しかし、この解体プロセスにおいて、艦内に大量のアスベスト（700トンから1,000トンとも推定される）が残存していることが判明し、重大な問題が浮上しました。当初、アスベスト除去作業はスペインで行われる計画でしたが、請け負った業者が費用削減のためにトルコでの実施を無許可で計画したため、トルコ政府に受け入れを拒否されました。この事態を受け、除去作業はフランス国内で実施されることになり、フランス政府の発表ではアスベスト残存量は45トンまで削減されたとされています。

問題はこれに留まりませんでした。2005年末、インド西部グジャラート州のアランにある解体施設へ向かうため、トゥーロン軍港を出航したクレマンソーに対し、2006年初頭にインド最高裁判所が待ったをかけました。アスベスト残存量に関する確実な情報がないこと、そして有害廃棄物の国境を越える移動を規制するバーゼル条約に違反する疑いがあるとして、インド領海への進入を一時的に禁止したのです。さらに同時期、フランス国内でも環境活動家らの訴えを受け、フランス国務院がクレマンソーをフランス領海に戻すよう判示しました。これを受け、当時のジャック・シラク大統領はクレマンソーにフランスへの帰港を指示し、艦はスエズ運河を通航中に引き返すこととなりました。

フランスに帰港後、クレマンソーはブレスト港に長期間係留されることとなりました。その後の解体計画は難航しましたが、2009年2月、イギリス北東部のハートルプールにある造船所で最終的に解体されることが決定しました。この決定に対しては、環境保護団体から「有毒幽霊船」と呼んで抗議の声が上がった一方で、地元では約200人分の新規雇用が見込まれるなど、経済効果への期待も寄せられました。

ハートルプールでの解体作業は開始されましたが、当初約1年で完了する見込みだったにもかかわらず、2010年の火災事故や環境汚染に関する調査などが発生し、予定より時間を要しました。最終的に、クレマンソーの船体解体が完全に完了したのは2011年のことでした。

クレマンソーは、軍事的な活躍だけでなく、その退役後の処理を巡るアスベスト問題が、有害廃棄物の国際的な移動や環境規制のあり方について大きな注目を集めるきっかけともなりました。その生涯は、冷戦期の軍事戦略から、現代社会における環境問題に至るまで、多くの側面を映し出すものと言えるでしょう。

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