クレメンス1世 (ローマ教皇)

クレメンス1世、またはローマのクレメンスは、初代教会時代のローマ司教であり、後に第4代ローマ教皇として列せられています。在位期間は91年から101年頃とされています。英語名からクレメント、日本正教会ではクリメントとも呼ばれます。

彼は使徒教父の一人として、カトリック教会、正教会、聖公会、ルーテル教会などで聖人として崇敬されています。カトリック教会での記念日は11月23日、正教会では12月8日に記憶されます。

伝承によれば、クレメンス1世は使徒ペトロを直接知る人物であり、パウロの「フィリピの信徒への手紙」に登場するクレメンスと同一人物であるとされてきました。彼の著作とされる「クレメンスの第一の手紙」は、コリントス教会で起きた問題の仲裁を試みたもので、初期キリスト教会の重要な資料となっています。この書簡は、ローマ司教が諸教会の仲介役としての役割を果たしていたことを示唆しており、後の教皇制度の萌芽と見る向きもあります。

一方で、この書簡をローマ教会の権威を他教会に及ぼそうとしたものと解釈し、ローマ教会が常にそのような役割を担っていたわけではないとする学者もいます。

伝統的にクレメンスの作とされる「クレメンスの第二の手紙」は、現在では2世紀半ば頃の成立と推測されており、彼の著作ではないと考えられています。

クレメンス1世の死についての詳細は不明ですが、初期のローマ司教たちと同様に殉教したと推測されています。クリミア半島のケルソネソスで致命したという伝承があり、このことからキリスト教が黒海沿岸のギリシア植民市に広まっていたことが示唆されています。ただし、この地域におけるキリスト教はルーシ内陸部には定着しなかったとされています。

当時、ニカイア公会議で決議された三位一体の教義はまだ定式化されていませんでしたが、クレメンスの書簡には三位一体の初期形態が見られるとする説もあります。彼は、キリスト教徒コミュニティにおける堕落の原因について考察し、「私たちにはひとりの神、ひとりのキリスト、私たちに恵みを注がれたひとりの霊があるではありませんか。キリストにあって召しはひとつではありませんか？」と述べています。

しかし、クレメンス自身は、「熱烈な祈りと請願をもって、宇宙の創造者が最愛のみ子イエス･キリストを通し、全世界にいるご自分の選民の過不足のない数をそのままに保たれることを懇願します。あなたが唯一の神であられ、イエス･キリストがみ子であることをすべての国民が理解しますように」と述べており、父を唯一の神とし、イエスを神から遣わされた者と理解していたことがわかります。

クレメンス1世は、初期キリスト教会の発展において重要な役割を果たした人物であり、彼の著作は後のキリスト教神学に大きな影響を与えました。

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