クレメンス11世 (ローマ教皇)

クレメンス11世（Clemens XI, 1649年7月23日 - 1721年3月19日）は、18世紀初頭にローマ教皇として在位した人物です。本名をジョヴァンニ・フランチェスコ・アルバーニ（Giovanni Francesco Albani）といい、その治世は、ヨーロッパ全体を巻き込んだ政治的、宗教的な大波に翻弄された時代でした。

生涯と教皇就任

アルバーニは、貴族の家系に生まれ、聖職者の道を歩み始めました。その才能は早くから認められ、アレクサンデル8世によって助祭枢機卿に任命されました。その後、1700年9月には司祭枢機卿となり、同年11月には教皇に選出され、クレメンス11世として即位しました。彼の教皇としての任期は20年以上に及びましたが、その間、ヨーロッパの政治情勢は激動し、教会もその影響を大きく受けることになります。

スペイン継承戦争と教皇の中立

クレメンス11世の治世中には、スペイン継承戦争が勃発し、イタリアも戦場となる危機に瀕しました。教皇は当初、中立を保とうと努めましたが、1707年にオーストリア軍がイタリアに侵攻し、領土の大半を制圧したため、1709年にはオーストリアが推すカール大公をスペイン王として認めざるを得なくなりました。しかし、カール大公は後に神聖ローマ皇帝カール6世となったため、スペイン王位を放棄しました。1713年と1714年に締結されたユトレヒト条約とラシュタット条約によって、イタリアは分割されることになりますが、教皇はこれらの条約には全く関与できませんでした。この状況は、教皇庁の政治的影響力の低下を象徴する出来事となりました。

ジャンセニスムとの対立

クレメンス11世の事跡の中で最も重要なものの一つが、1713年に発布された教皇勅書「ウニゲニトゥス」です。この勅書は、ジャンセニスムを公的に弾劾した初めての文書であり、フランスの教会に大きな論争と反発を引き起こしました。ジャンセニスムとは、人間の自由意志を否定し、神の恩寵の絶対性を強調する神学的な運動で、フランスを中心に広まっていました。この勅書は、パスキエ・ケネルの著作から抽出された101のテーゼを誤謬と断定し、ジャンセニスムの教義を否定しました。この勅書の発布は、ジャンセニスムが浸透していたフランス教会とフランス国家の反発を招き、フランス政府が勅書への署名を拒否するという事態を招きました。これは、20世紀以前によく見られた、政府による教会への干渉の一例として知られています。

中国典礼論争

クレメンス11世は、中国での宣教活動における典礼論争にも深く関わりました。この論争は、イエズス会が認めていた孔子と先祖への崇敬を、ドミニコ会やフランシスコ会が偶像崇拝として非難したことから始まりました。教皇はドミニコ会とフランシスコ会の主張を支持し、イエズス会の文化適応政策を批判しました。この決定は、中国での宣教活動に大きな影響を与え、イエズス会の活動を困難にしました。

人となりと評価

クレメンス11世は、個人的には人格者であり、優れた学者でもあったとされています。しかし、彼の治世は、多くの政治的・宗教的な問題に翻弄され、結果として教皇庁の精神的権威を失墜させることにも繋がりました。また、新井白石との対話で知られるジョバンニ・シドッチが、クレメンス11世に日本渡航の許可を願い出たという逸話も残っています。彼の治世は、教会が直面した様々な困難を浮き彫りにするとともに、複雑な国際情勢の中で教皇の役割が大きく変化していく時代であったと言えるでしょう。

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