クレメンス4世 (ローマ教皇)

クレメンス4世（Clemens IV）は、13世紀のローマ教皇であり、その生涯は波乱に満ちています。1190年から1200年の間にフランスのサン＝ジルで生まれたとされ、本名はギ・フコワ（Gui Foucoi）といいました。若い頃は兵士や弁護士として俗世で活躍し、フランス王ルイ9世の秘書官も務めるなど、多彩な経歴を持っています。また、結婚して2人の娘をもうけたものの、妻の死後、聖職者の道に進むという異色の転身を遂げました。

1256年にル・ピュイ＝アン＝ヴレ司教、1259年にはナルボンヌ大司教に任命され、1262年には教皇ウルバヌス4世によってイングランドへの教皇使節に任命されるなど、急速に教会内での地位を高めていきました。当時のイタリアでは、シチリア王国を支配するホーエンシュタウフェン朝と教皇庁が対立しており、ウルバヌス4世もその対応に苦慮していました。1264年にウルバヌス4世が亡くなった後、1265年のコンクラーヴェで、イングランドに滞在していたギーが教皇に選出されました。しかし、シチリア王マンフレーディの支配下にあったイタリアに帰還する際は、捕縛を避けるために変装を余儀なくされたと言われています。

教皇となったクレメンス4世は、マンフレーディに対抗するため、フランス王ルイ9世の弟シャルル・ダンジューを招聘し、1266年にシチリア王冠を授与しました。シャルルはこれに応じ、ベネヴェントの戦いでマンフレーディを討ち取ると、1268年にはマンフレーディの甥コッラディーノもタリアコッツォの戦いで破り、処刑しました。これにより、ホーエンシュタウフェン朝は滅亡し、クレメンス4世はそれを確認するかのように、その年の11月に死去しました。しかし、シチリアの支配者がホーエンシュタウフェン朝からシャルルに変わっただけであり、教皇庁は依然として不安定な状況に置かれ、その後の教皇はシャルルの動向に翻弄されることになります。

クレメンス4世の業績は、政治的なものに留まりません。中央アジアのイル[[ハン朝]]第2代ハン・アバカとの交渉もその一つです。フランスとモンゴルとの同盟を目指しましたが、これは実現しませんでした。アバカが東ローマ帝国皇帝ミカエル8世の娘マリアと結婚していたことが、同盟を困難にした要因の一つと考えられています。また、フランシスコ会修道士ロジャー・ベーコンに著作をまとめるよう依頼し、ベーコンは1267年に『大著作』をクレメンス4世に送りました。翌年には『第三著作』も送られましたが、クレメンス4世の死後、ベーコンは庇護者を失い、フランシスコ会に投獄されることになりました。

クレメンス4世の死後、次の教皇を選ぶコンクラーヴェは難航し、3年もの間、後任が決まりませんでした。最終的に1271年、テオバルド・ヴィスコンティがグレゴリウス10世として選出されましたが、彼は当時、イングランドのエドワード王太子が率いる第8回十字軍に参加しており不在でした。クレメンス4世の治世は、シチリアを巡る政治的な混乱と、その後の教皇庁の不安定化という課題を残しましたが、その一方で、文化や学問を奨励した側面も持ち合わせていました。彼の生涯は、中世ヨーロッパの複雑な政治情勢と、教会が担っていた役割を象徴していると言えるでしょう。

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