クレメンス7世 (対立教皇)

クレメンス7世：アヴィニョン対立教皇の生涯と教会大分裂

14世紀、カトリック教会は東西分裂という大きな危機に直面しました。その混乱の中で、クレメンス7世はアヴィニョンを拠点とした対立教皇として歴史に名を残すこととなります。本稿では、彼の生涯と教会大分裂における役割を、詳細に検討します。

クレメンス7世の出自と初期の経歴

クレメンス7世、本名ロベール・ド・ジュネーヴは、1342年にアヌシーで生まれました。父はジュネーヴ伯アメデウ3世、母はオーヴェルニュ伯兼ブローニュ伯の娘マオです。裕福な貴族の家に生まれ、多くの兄弟姉妹に囲まれて育ちました。母方の親戚にフランス王家の血縁者がいたことから、若きロベールはフランス王家と親密な関係を築き、その後の彼の経歴に大きな影響を与えました。

聖職者の道を歩んだロベールは、パリ司教区参事会員を経て、アヴィニョン教皇庁の書記官に任命されます。その後、テルアンヌ司教、カンブレー大司教へと昇進し、1371年にはグレゴリウス11世によって枢機卿に任命されました。

チェゼーナの大虐殺と教皇選挙

枢機卿として、ロベールは教皇特使としてイタリア北部に赴任し、反乱の鎮圧にあたりました。その過程で、チェゼーナにおいて起きた大虐殺は、彼の生涯に暗い影を落とすことになります。約4000人の市民が虐殺されたこの事件で、ロベールは指揮官として、あるいはその承認者として、責任を問われることとなり、「チェゼーナの大虐殺者」の汚名を着せられました。この事件はローマ市民の怒りを買い、教皇グレゴリウス11世のローマへの帰還後もその反響は収まりませんでした。

1378年、グレゴリウス11世の死去に伴い、ローマで教皇選挙が行われました。ローマ市民の強い要求を受けて、ナポリ出身のウルバヌス6世が選出されました。ロベールは当初、ウルバヌス6世を支持しましたが、ウルバヌス6世の粗暴な振る舞い、そしてイタリアへの偏向的な政策に失望し、フランス人枢機卿らとともに反感を強めました。

最終的に、彼らはウルバヌス6世の選出を無効と宣言し、アナーニで新たな教皇選挙を行い、ロベールを教皇クレメンス7世として選出しました。こうして、教会大分裂が始まったのです。

アヴィニョン対立教皇としてのクレメンス7世

クレメンス7世は、フランス王シャルル5世やナポリ女王ジョヴァンナ1世などの支援を受けました。しかし、ウルバヌス6世もまた、神聖ローマ皇帝カール4世やイングランドなどの支持を得ていました。ヨーロッパは、二つの教皇が並ぶ分裂状態に陥りました。クレメンス7世はローマ奪還を目指しましたが失敗し、アヴィニョンを拠点とすることを余儀なくされました。アヴィニョンは教皇領から遠く離れており、財政難に直面するようになりました。増税などの政策は民衆の反感を買い、彼の統治は困難を極めました。

1389年、ウルバヌス6世が死去すると、クレメンス7世はローマの枢機卿団による承認を期待しましたが、ボニファティウス9世が選出され、クレメンス7世は破門されました。両者は最後まで妥協せず、1394年、クレメンス7世はアヴィニョンで脳卒中により亡くなりました。彼の死後も、教会大分裂は続きました。

歴史におけるクレメンス7世の位置づけ

クレメンス7世は、教会大分裂という混乱の時代に、対立教皇として歴史の表舞台に立ちました。彼の統治は財政難や政治的対立に悩まされ、ローマを奪還するという目的も達成できませんでした。しかし、彼の存在は教会大分裂の長期化に貢献し、後の教会改革へと繋がる重要な出来事の一部となりました。彼の生涯は、権力闘争と宗教的混乱に満ちた時代を象徴するものであり、歴史家たちは今もなお、彼の役割と教会大分裂への影響について研究を続けています。アヴィニョン対立教皇としての彼の経験と、その後の教会の歩みは、歴史にとって貴重な教訓を残しています。

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