クロカンガルー

双前歯目カンガルー科カンガルー属に分類される大型の有袋類、それがクロカンガルー（学名：Macropus fuliginosus）です。英名ではWestern Grey Kangarooとして知られています。オーストラリアに広く分布しており、その堂々とした姿は人目を引きます。

生息地と分布

クロカンガルーの主な生息域は、オーストラリア大陸南部の広範な半乾燥地帯です。分布は西は西オーストラリア州のシャーク湾南部から始まり、南オーストラリア州の沿岸地域、ビクトリア州の西部、そしてニューサウスウェールズ州およびクイーンズランド州のマレー・ダーリング川流域へと広がります。オーストラリア北部の熱帯地域や、大陸南東部の降水量が多く肥沃な地域では通常見られません。また、南オーストラリア州の沖合に浮かぶカンガルー島には固有の亜種が生息しており、これは「カンガルー・アイランド・カンガルー」として知られています。

体の特徴

クロカンガルーは大型のカンガルーであり、直立した際の体高は約130センチメートルに達します。体重は成獣で28キログラムから54キログラム、頭から胴体までの長さは0.84メートルから1.1メートル、尾の長さは80センチメートルから100センチメートルほどになります。この種には顕著な性的二型が見られ、オスはメスの約2倍の大きさに成長します。オスの体重は最大で約54キログラムに達することがありますが、メスの最大体重は約28キログラム程度です。体毛は厚く、ごわごわした手触りをしており、体色は淡い灰色から茶色を基調としています。喉から胸、腹にかけては乳白色をしており、四肢の先端、爪、そして尾の先端部は黒褐色となる傾向があります。

生態と行動

主に活動するのは夕暮れ時から夜間、そして早朝にかけてであり、典型的な夜行性動物です。単独で行動することもありますが、通常は数頭から、多いときには最大15頭程度の群れを形成して生活します。食性は草食であり、主に地面に生えている草本類を採食しますが、葉のある灌木や低木の葉も食べることがあります。興味深い特徴として、成獣のオスは繁殖期になると独特の強い匂いを放ちます。この匂いがカレーの香りに例えられることから、地元では「Stinker（臭いやつ）」という愛称で呼ばれることもあります。

繁殖

繁殖期が訪れると、オスはメスを獲得するために互いに競い合います。この競争は、互いに前肢を組み合わせて押し合う「ボクシング」として知られる行動で行われます。群れの中では、通常、優位なオスのみが繁殖に関わることができます。妊娠期間は約30日から31日間と短く、生まれたばかりの子ども（ジョーイ）は非常に小さく、まだ十分に発達していません。ジョーイは生まれるとすぐに母親の育児嚢に入り、そこで約130日から150日間、乳を飲んで成長します。育児嚢から外に出るようになった後も、生後約42週齢頃までは育児嚢への出入りを繰り返し、安全な場所として利用します。性成熟に達し繁殖能力を持つようになるまでの期間は、オスが2年半から4年、メスは約20ヶ月齢です。

分類を巡る歴史

クロカンガルーの分類は、過去約200年間にわたり複雑な歴史をたどりました。ヨーロッパ人による最初の記録は、1802年に探検家マシュー・フリンダースが南オーストラリア州のカンガルー島に上陸した際に遡ります。フリンダースが食糧として捕獲したカンガルーが、後のクロカンガルーであったと考えられています。翌1803年、フランスの探検隊もカンガルー島から数頭のカンガルーを捕獲し、パリへ輸送して動物園で飼育しました。偶然にも、フランス国立自然史博物館の研究者がこれらの個体が他のカンガルーと異なる特徴を持つことに気づき、1817年にMacropus fuliginosusとして正式に記載されました。しかし、この時の記載で、本来の生息地ではないタスマニアが誤って原産地とされてしまい、分類上の混乱が生じました。この問題はその後100年近く放置されましたが、1917年になって、タスマニア島に生息するカンガルー（フォレスターカンガルー）が、オーストラリア大陸南東部に広く分布するオオカンガルー（Macropus giganteus）と同一種であることが確認されました。さらに、1971年にはカンガルー島の個体が、オーストラリア大陸西部に生息するクロカンガルーと同一種であることが判明し、この種の分布域が大陸の東部にまで及ぶことが明らかになりました。一時期は、大陸に2つの亜種とカンガルー島に1つの亜種、合計3亜種が存在するという説もありましたが、最終的には1990年代前半に現在の2亜種分類体系が確立されました。

亜種と近縁種

現在、クロカンガルーには以下の2つの亜種が公式に認められています。

Macropus fuliginosus fuliginosus：カンガルー島に生息する亜種です。
Macropus fuliginosus melanops：オーストラリア大陸に生息する亜種です。大陸内の分布域、特に西部から東部にかけて、毛色や体格に地理的な違いが見られることがあります。

近縁種であるオオカンガルー（Macropus giganteus）は、ニューサウスウェールズ州と南オーストラリア州の州境付近、マレー・ダーリング川流域に分布しており、クロカンガルーの一部生息域と重なる地域があります。これらの地域では、時には両種が同じ群れの中に混じって見られることもあります。野生環境下でのクロカンガルーとオオカンガルーの間の交雑は現在のところ確認されていませんが、飼育下においては、オオカンガルーのメスとクロカンガルーのオスの間で交雑個体が生まれることが報告されています。

クロカンガルーは、地域や文献によって、Black-faced Kangaroo（黒顔カンガルー）、Mallee Kangaroo（マリーカンガルー）、Sooty Kangaroo（煤色カンガルー）、Carno Kangarooといった別名で呼ばれることもあります。

人間との関係

クロカンガルーは、オーストラリア連邦政府や各州政府の野生動物保護に関する法律によって保護されています。しかし、農作物への被害などが発生した場合、適切な許可を取得すれば、害獣として駆除や捕獲が認められるケースもあります。

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