クロコトニツァの戦い

クロコトニッツァの戦い：第二次ブルガリア帝国の隆盛

1230年3月9日、現在のブルガリア、ハスコヴォ県クロコトニッツァ村近郊で、歴史を大きく変える戦いが繰り広げられました。それは、第二次ブルガリア帝国とテッサロニキ帝国の間で勃発した「クロコトニッツァの戦い」です。この戦いでブルガリア帝国は劇的な勝利を収め、南東ヨーロッパにおける覇権を確立しました。

戦いの背景

1220年代初頭、ブルガリア皇帝イヴァン・アセン2世は、エピロス専制侯国のテオドロス1世コムネノス・ドゥーカスと同盟を結びました。この同盟により、テオドロス1世はラテン帝国からテッサロニカを奪還し、マケドニア地方を征服してテッサロニキ帝国を築き上げました。1228年にラテン皇帝ロベールが崩御すると、イヴァン・アセン2世は幼帝ボードゥアン2世の摂政候補として有力視されるようになります。

しかし、テオドロス1世にとって、ブルガリアはコンスタンティノープルへの進出を阻む唯一の障壁でした。彼は1230年3月、平和条約を一方的に破棄し、宣戦布告なしにブルガリアへ侵攻するという暴挙に出ます。

戦いの経過

テオドロス1世は、西洋の傭兵を含む大軍を編成しました。勝利を確信していた彼は、妻子を含む王室関係者全員を戦場に同行させました。しかし、テオドロス1世の軍は進軍速度が遅く、道中の村々で略奪を繰り返しました。一方、ブルガリア皇帝イヴァン・アセン2世は、侵略の報を受けると、少数精鋭の軍（クマ人も含む）を編成し、迅速に南下を開始しました。ブルガリア軍は、テオドロス1世の軍が1週間かけて進んだ距離を、わずか4日間で駆け抜けました。

3月9日、両軍はクロコトニツァ村近郊でついに激突します。イヴァン・アセン2世は、破棄された相互保護条約を槍に掲げ、それを旗印として兵士たちの士気を高めました。彼は卓越した戦術家であり、敵の意表を突く奇策によってテッサロニキ帝国軍を包囲することに成功しました。日没まで続いた激戦の末、テオドロス1世の軍は壊滅的な打撃を受け、弟マヌエル率いる一部隊が辛うじて戦場から逃れるにとどまりました。テオドロス1世自身を含む残りの兵士たちは、戦死するか捕虜となるかのいずれかの運命を辿りました。

戦いの影響

戦勝後、イヴァン・アセン2世は捕虜となった兵士たちを直ちに無条件で解放し、貴族たちを首都タルノヴォへ移送しました。この寛大な措置は、彼を慈悲深く公正な支配者として評判を高めました。そして、テオドロス1世が征服したばかりのトラキアとマケドニアの領土は、ブルガリアの支配下へと抵抗なく戻りました。テッサロニキ自体も、テオドロス1世の弟マヌエルの下でブルガリアの臣下となりました。

この勝利は、ブルガリア帝国に安定と繁栄をもたらし、イヴァン・アセン2世の治世はブルガリア中世史における最盛期の一つとして評価されています。

しかし、イヴァン・アセン2世の死後、エピロスのブルガリア帝国への臣従は終わりを告げ、ブルガリア帝国は徐々に衰退の一途を辿ることになります。クロコトニッツァの戦いは、ブルガリア帝国の絶頂期を象徴する出来事として、歴史に深く刻まれています。

タルノヴォ碑文

戦勝を記念し、イヴァン・アセン2世は首都タルノヴォの「聖40殉教者教会」に碑文を刻みました。この碑文は、戦いの結果とその後の状況を最も正確に伝える史料として、現在もその価値を保っています。

（碑文の内容はinputの通り）

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