テオドロス1世コムネノス・ドゥーカス

テオドロス1世コムネノス・ドゥーカス：エピロス専制侯国の野望と没落

テオドロス1世コムネノス・ドゥーカス（生年不詳 - 1253年頃）は、エピロス専制侯国の第2代専制公として、その治世（1215年 - 1230年、皇帝としては1224年 - 1230年）において、領土拡大と東ローマ帝国の再興を目指しました。初代専制公ミカエル1世コムネノス・ドゥーカスの弟であり、父系はアンゲロス家ですが、その名前を自ら使用することはありませんでした。

領土拡大と皇帝即位

1215年、兄ミカエルの暗殺後、テオドロス1世は専制公の座を継承しました。彼は勇猛果敢な軍事的才能を持ち、エピロス専制侯国の勢力拡大に邁進しました。1204年にコンスタンティノープルを占領したラテン帝国の衰退に乗じて、テッサロニキ王国への侵攻を開始し、1224年までに王国を滅ぼしました。この結果、エピロス専制侯国はエピロス、テッサリア、マケドニアにまたがる広大な領土を支配下に置くこととなり、その勢力を背景に、テオドロス1世はテッサロニキで皇帝を宣言しました。この時期のエピロス専制侯国は「テッサロニキ帝国」とも呼ばれ、その最盛期を迎えました。

コンスタンティノポリスへの野望と挫折

テオドロス1世の野望は、コンスタンティノポリスの奪還と東ローマ帝国の復活にありました。1217年には、ラテン皇帝ピエール2世・ド・クルトネーを捕縛し、1225年にはアドリアノープルを占領するなど、着実に勢力を拡大していきました。しかし、ブルガリア帝国の皇帝イヴァン・アセン2世もまた、コンスタンティノポリス征服を目指しており、両者の関係は次第に悪化していきました。

1230年、テオドロス1世は8万の軍勢を率いてブルガリア遠征に乗り出しましたが、クロコトニツァの戦いで大敗を喫し、自身も捕虜となりました。この敗北により、エピロス専制侯国のブルガリアに対する優位は失われ、支配権は弟のマヌエルへと引き継がれました。

虜囚からの解放と権力闘争

テオドロス1世はブルガリアで虜囚生活を送ることになりましたが、イヴァン・アセン2世の皇后の死去に伴い、娘のエイレーネーを彼と結婚させることを条件に釈放されました（1237年）。帰国後、彼は直ちに弟のマヌエルを追放し、息子のヨハネスを支配者に据えましたが、ニカイア帝国との対抗上、マヌエルやコンスタンティノスと和解し、ラテン帝国などとも同盟を結びました。

分裂と没落

しかし、これらの権力闘争の結果、エピロス専制侯国の一体性は失われました。マヌエルはテッサリアで独立を維持し、ミカエル1世の庶子であるミカエル2世アンゲロス・コムネノスがエピロスを拠点として事実上独立を果たしました。こうした分裂傾向は、エピロス専制侯国の勢力と威信を著しく弱める結果をもたらしました。

テオドロス1世は後にニカイア帝国に捕らえられ、虜囚生活の内に1253年頃に死去しました。彼の生涯は、エピロス専制侯国の隆盛と没落、そして東ローマ帝国の再興という壮大な夢の挫折を象徴するものと言えるでしょう。

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