クロスバースイッチ

クロスバースイッチとクロスバー交換機

クロスバースイッチの基本

クロスバースイッチは、複数の通信路が縦と横に平行に配置され、それらの交点それぞれにスイッチを備えた構造を持っています。これらのスイッチ群を適切に操作することで、縦方向の任意の通信路と横方向の任意の通信路の間で、他の経路に影響を与えない専用の接続を一時的に作り出すことが可能です。名称の由来は、初期の電話交換機において金属の棒が交差する様子から「クロスバー」と呼ばれるようになったとされています。この技術は、電話交換機をはじめ、ネットワークスイッチングハブ内部のスイッチングアレイや、複数のプロセッサ間でデータをやり取りする際の通信スイッチなど、様々な情報通信機器の基盤技術として利用されました。

クロスバー交換機とは

電話網においては、このクロスバースイッチを主要な通話路スイッチとして採用した自動電話交換機が「クロスバー交換機」と呼ばれました。電話通信の分野では「クロスバ交換機」と表記されることもありました。自動化された電話網において、発信者と着信者の間を結ぶ役割を担いました。

国内外の歴史

世界での誕生と発展

クロスバー交換機が世界で初めて実用化されたのは、1926年のスウェーデンでした。その後、1938年にはアメリカ合衆国のベルシステムが「1XB」と呼ばれる1号クロスバー交換機を開発し、都市部での実用化に成功しました。この技術が当時の電気学会誌で発表されると、日本の技術者たちも強い関心を寄せ始めました。

日本への導入と国産化

日本では、第二次世界大戦後、電話網の近代化が急務となる中で、既存のステップ・バイ・ステップ方式の交換機からの移行を円滑に進める必要がありました。1955年、日本電信電話公社（電電公社）は、アメリカのケロッグ社製7号クロスバー交換機を群馬県の一部地域で試験的に導入し、運用を開始します。これと並行して、1953年からは郵政省電気通信研究所と日本電気が共同で、日本国内での実用化を目指した開発を進めました。その成果として、1956年には第二種クロスバー自動交換機（後にC2形と呼ばれる）が栃木県の電話局に導入されました。以降、この国産機を改良しながら、全国の電話局に順次設置が進められました。

役割の終焉

クロスバー交換機は、加入者間の市内通話だけでなく、都市間を結ぶ市外通話の中継にも広く利用されました。しかし、コンピュータ制御による電子交換機の開発が進むと、その役割を譲るようになります。日本では1995年3月24日、宮崎県内の電話交換所での運用を最後に、全てのクロスバー交換機がその役目を終え、電話網から姿を消しました。

技術的特徴と貢献

クロスバー交換機は、それまでのステップ・バイ・ステップ交換機と比較していくつかの顕著な利点を持っていました。

構造上の優位性: クロスバースイッチは、ダイヤルパルスに機械的な動作が直接連動するステップ・バイ・ステップ方式とは異なり、交点のスイッチ制御が独立しているため、接点数を増やしやすく、また摺動部分（こすり合って動く部分）が少ないという特徴がありました。これにより、交換機の信頼性や処理能力が向上しました。
実現されたサービス: この技術的な進歩は、電話サービスに大きな変革をもたらしました。特に、市外通話のダイヤル自動即時化が可能になり、遠距離通話がより手軽になりました。また、通話距離と時間に応じた、よりきめ細かい料金設定（広域時分制）も実現されました。さらに、制御回路の配線を変更することで、キャッチホンなどの新たな付加機能を比較的容易に追加することも可能でした。利用者の側でも、電話機のダイヤル速度を速く設定できるようになり（日本では10ppsから20ppsが導入）、プッシュ式ダイヤル（DTMF）にも対応可能となりました。
* 制御の仕組みと課題: クロスバー交換機の制御は、「布線論理（ワイヤードロジック）」と呼ばれる方式が主流でした。これは、交換機の全ての動作がハードウェア（配線やリレー回路）によって決定されるというものです。電話番号などの信号情報は一時的に記憶され、共通の制御回路で通話路の接続などを管理していました。この方式は信頼性が高い一方、料金体系の変更や新たなサービスの追加といった機能変更を行う際には、全国全ての交換機の配線を手作業で変更する必要があり、非常に時間と労力がかかるという課題も抱えていました。

日本の標準形式

日本国内では、電電公社がクロスバー交換機の仕様を標準化し、複数の電機メーカーが分担して製造していました。主な形式として、C1からC4形が加入者向けの交換機（端局に相当）、C5からC8形が中継用の交換機（集中局に相当）、C9形が特定のサービス（特番受付など）に対応するものとして区分されていました。これらの形式は、1960年代にかけて、より小型化、低コスト化、設置や運用の容易化、そしてプッシュ式ダイヤルなどの新サービスへの対応を目指して継続的に改良が加えられました。

初期のクロスバー交換機は、導入にかかる費用がステップ・バイ・ステップ方式に比べて高価であったため、加入者が多い都市部への普及は当初遅れていました。しかし、1963年12月から電電公社と国内主要電機メーカー4社が共同で開発した「C400形」は、その優れた経済性から市内電話交換機の「完成形」と位置づけられました。1966年3月に最初の導入がされて以降、C400形は日本の市内電話網の標準機として全国各地に広く普及し、日本の高度経済成長期における電話網の発展を支えました。

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