クロタル

クロタル（Crotal / Crotale）

クロタル、またはクロテイルと呼ばれるこの楽器は、打楽器の中でも体鳴楽器に分類される楽器の一種です。その起源は非常に古く、古代ギリシャやローマ時代にまで遡ることができます。

特徴と構造

クロタルは、直径がわずか数センチメートル程度の小さな一対のシンバルで構成されています。これらの小さなシンバルは、湾曲した針金や、物を挟むような形状の柄の先端に取り付けられており、奏者が片手で持って演奏できるようになっています。この独特な形状と演奏方法から、欧米ではしばしば「鉄のカスタネット」と称されることがあります。

歴史と用途

古代ギリシャやその他の地域では、クロタルは主に宗教的な儀式や舞踏の際に使用されました。特に、狂乱的な儀式で知られるコリュバンテスなどの宗教舞踏において、その特徴的な響きが用いられたことが記録に残っています。

また、古代ギリシャ神話にもこの楽器、またはそれに類する「クロタラム」が登場します。英雄ヘーラクレースが、怪物ステュムパーロスの鳥を退治する際に、鍛冶神ヘーパイストスが作った青銅製のクロタラムを使って鳥を驚かせたという物語は有名です。

名称とその語源

「クロタル」という名称は、古代ギリシャ語の「κρόταλον (krotalon)」に由来しています。この語は、楽器の名前としてだけでなく、古代においては比喩的に「やかましい人」を指す言葉としても用いられていました。

各国語での表記は以下の通りです。

英語：Crotal
アメリカ英語：Crotale
ドイツ語：Metallkastagnetten
フランス語：Castagnettes de fer
イタリア語：Castagnette di ferro
古代ギリシャ語：κρόταλον (krotalon)
ラテン語：crotalum

誤解されやすい楽器

現代において、クロタルは他の楽器と混同されることがしばしばあります。特に、以下の二つの楽器との違いには注意が必要です。

アンティークシンバル: 作曲家モーリス・ラヴェルが自身の楽曲でアンティークシンバルを指して「クロタル」と記したことから、アンティークシンバルがクロタルやクロテイルと呼ばれることがありますが、両者は起源も構造も異なる全く別の楽器です。アンティークシンバルは通常、より大きく、独立した円盤状の楽器であり、クロタルのような柄は持ちません。
シストラム: 古代エジプトの宗教儀式で用いられた体鳴楽器であるシストラムとも混同されることがありますが、これもまた形状や構造が異なります。シストラムは枠に金属片や輪を通した棒状の楽器で、振って音を出します。

関連情報

フィンガーシンバル: クロタルの小さなシンバルは、フィンガーシンバルに類似しています。
* ガラガラヘビ: スペイン語でガラガラヘビを指す言葉の一つに「crótalo」がありますが、これはクロタラムを語源としており、ヘビが尾を鳴らす音が楽器の音に例えられたことに由来すると考えられています。

これらの情報は、『打楽器事典』（網代景介・岡田知之著、音楽之友社、1981年）をはじめとする資料に基づいています。

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