クヴェードリンブルク祭具盗難事件

クヴェードリンブルク祭具盗難事件

クヴェードリンブルク祭具盗難事件は、第二次世界大戦終結間際にドイツのクヴェードリンブルクで発生した、非常に価値の高い教会宝物が盗まれた事件です。この事件は、戦後の混乱と、一人のアメリカ軍人の野心、そして美術品に対する深い知識が絡み合って起きました。

事件の概要

事件の発端は、1945年4月、アメリカ陸軍第87機甲野戦砲兵大隊がクヴェードリンブルク近郊の坑道で、クヴェードリンブルク修道院の貴重なコレクションを発見したことに始まります。これらのコレクションは、戦火や盗難から守るために隠されていたものでした。しかし、厳重な監視下にあったにもかかわらず、9世紀の装飾福音書写本「サムエル福音書」や宝石装飾付ブックカバー、聖遺物箱、儀式用の象牙の櫛など、8つの貴重な品が紛失してしまいます。

当時、クヴェードリンブルク修道院は936年にオットー大帝が父ハインリヒ1世を追悼するために創建した私有教会でした。数世紀にわたり、皇帝一家からの寄贈品が数多く収められ、貴重なコレクションが形成されていました。宗教改革後はルター派の聖セルファース教会として機能していましたが、第二次世界大戦中にコレクションは坑道に移され、戦火を逃れていました。

犯人：ジョー・トム・ミーダー

事件の犯人は、当時クヴェードリンブルクに進駐していたアメリカ軍人の一人、ジョー・トム・ミーダー中尉でした。ミーダーは1916年アーカンソー州生まれ。美術の学位を持ち、フランス留学経験もあるなど、美術に対する深い知識を持っていました。彼は第87機甲野戦砲兵大隊に所属し、砲撃目標を観測する任務についていました。

記録によると、坑道が発見された際、ミーダーはコレクションの監視を担当する小部隊の一員でした。美術品に造詣が深かった彼は、コレクションの価値を他の兵士よりも正確に理解していました。目撃者の証言によれば、ミーダーは坑道から早足で立ち去る姿が目撃されており、盗み出した品物を家族宛の郵便物に紛れ込ませていたとされています。

戦後、ミーダーは美術教師として働いた後、家業を継ぎました。しかし、かつての友好的な青年は、復員後には秘密主義的で孤立しがちになり、まるで別人のようになったと言われています。自宅には多数の骨董品や美術品が飾られていたそうです。

売却と訴訟、そして返還

ミーダーは1980年に癌で亡くなりましたが、遺書には盗まれた祭具に関する記述はありませんでした。しかし、彼の死後、姉と兄が「サムエル福音書」をオークションに出品したことから事件が再び動き出します。

ドイツの国家文化財団が300万ドルで落札したものの、その後、クヴェードリンブルク修道院を代行する形で米連邦地裁が民事訴訟を起こしました。長い交渉の末、ミーダー家は275万ドルで買い戻し、全ての祭具を返還することで合意しました。

1996年には、米連邦政府がミーダーの遺族を起訴しましたが、時効を理由に却下されました。その後、内国歳入庁(IRS)が調査を行い、多額の支払いを命じましたが、最終的には和解に至りました。

こうして、盗難から半世紀以上の時を経て、クヴェードリンブルクの祭具は故郷へと戻ったのです。

脚注

* Treasures of Quedlinburg Cathedral （ドイツ語）

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