クージョ

クージョ（Cujo）

概要

スティーヴン・キングが1981年に世に送り出した長編小説です。物語の核となるのは、狂犬病に感染し凶暴化した巨大なセント・バーナード犬で、その犬の名前がそのまま作品タイトルとなっています。人間が日常の中で突如として遭遇する、制御不能な自然の脅威（ここでは病に冒された動物）による恐怖を克明に描き出しています。1983年にはルイス・ティーグ監督、ディー・ウォーレス主演で映画化され、こちらも広く知られています（映画の邦題は『クジョー』）。

あらすじ

物語は、メイン州の片田舎にある架空の町、キャッスルロックを舞台に展開します。中心となるのは対照的な二つの家族です。一つは、ニューヨークから引っ越してきたばかりのトレントン家。広告代理業を営む夫のヴィックは事業の失敗に頭を悩ませ、しばしば家を空けています。妻のドナと4歳になる幼い息子タッドは、慣れない土地での生活を送っています。もう一つは、キャッスルロック郊外で長年自動車修理工場を営むキャンバー家。主人のジョー、妻のチャリティ、そして10歳の息子ブレット、さらに約90キログラムもの体重を持つ温厚なセント・バーナード犬のクージョが暮らしています。

キャンバー家近くの野原でウサギを追いかけていた際、クージョは洞窟に潜むコウモリに鼻を噛まれ、狂犬病ウイルスに感染してしまいます。その頃、チャリティが宝くじに高額当選したことで、彼女と息子ブレットはコネチカット州への観光旅行を計画し、家を空けることになります。一方、ジョーも妻子の不在中にボストンへ出かけることを密かに考えていました。

家族が留守となったキャンバー家で、クージョは狂犬病を発症し、次第に凶暴化していきます。自覚のないまま苛立ちと苦痛に苛まれたクージョは、最初にキャンバー家の隣人を襲って殺害します。異変に気づいたジョーが警察へ通報しようとした時、クージョは彼にも襲いかかり、命を奪います。

時を同じくして、ドナとタッドは故障したフォード・ピントの修理のため、キャンバー家を訪れます。しかし、家の前庭に車を乗り入れたところで、車は完全に動かなくなってしまいます。ジョーの姿が見当たらない中、クージョが突如二人に牙を剥いて襲いかかります。ドナとタッドは寸前で車の狭い車内へと逃げ込みますが、真夏の強烈な日差しによって車内の温度は容赦なく上昇していきます。外には狂暴化したクージョが待ち構え、二人は文字通り閉じ込められた状態となります。

ドナとの連絡が途絶えたことを心配したヴィックはキャッスルロックに戻り、警察に捜索を依頼します。キャンバー家の異変に気づいた郡保安官が現場に派遣されますが、彼もまたクージョによって殺されてしまいます。

保安官の死を目の当たりにしたドナは、脱水症状で瀕死の状態にあるタッドを救うためには、自らが行動するしかないと決意します。車内にあったバットを手に、ドナは死に物狂いでクージョに反撃を試みます。激しい格闘の末、ドナはクージョの頭を何度も打ち据え、ついにその命を絶ちます。時を同じくしてヴィックがキャンバー家へ到着しますが、時すでに遅く、タッドは既に息絶えていました。ドナは脱水症状と負傷により病院へ搬送され、クージョの死体は検死の後、焼却処分されました。

数カ月後、クージョに噛まれたことで狂犬病に感染していたドナは奇跡的に回復しますが、ヴィックと共に息子を失った深い悲しみを抱えながら生活を続けています。一方、旅行から戻ったチャリティとブレットは、予防接種を受けた新しい子犬ウィリーを飼い始めます。

主要登場人物

ヴィック・トレントン: 広告代理業を営む夫。事業問題で不在がちになる。
ドナ・トレントン: ヴィックの妻。タッドを守るために壮絶な戦いを強いられる。
タッド・トレントン: ヴィックとドナの幼い息子。閉鎖された車内で過酷な状況に置かれる。
ジョー・キャンバー: 自動車修理工。クージョの飼い主であり、最初の犠牲者の一人となる。
チャリティ・キャンバー: ジョーの妻。旅行中に悲劇が起こる。
ブレット・キャンバー: ジョーとチャリティの息子。母親と共に旅行に出かける。
クージョ: キャンバー家の飼い犬。狂犬病によって物語全体の惨劇を引き起こす。
ジョージ・バナーマン: キャッスル郡の保安官。キャンバー家を訪れて犠牲となる。

関連情報

本作の舞台であるキャッスルロックは、スティーヴン・キングの多くの作品に登場する架空の町であり、彼の作品世界において重要な場所の一つです。また、同じキャッスルロックを舞台にした短編を基にした作品『スタンド・バイ・ミー』には、本作に登場するクージョについて言及される箇所があります。

日本語訳は、永井淳氏によって手がけられ、1983年に新潮文庫より刊行されています。

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