グアテマラ人体実験

グアテマラ人体実験：闇に葬られた医療倫理の侵害

1940年代後半、中米グアテマラで、アメリカ合衆国政府による人体実験が行われました。この実験は、ペニシリンの薬効を確かめるという名目で、梅毒や淋菌などの性病菌を意図的に人々に感染させるという、倫理的に許しがたいものでした。

隠された真実の発覚

この人体実験の記録は、長らく闇に葬られていましたが、2010年、米国ウェルズリー大学のスーザン・リバビー教授が、ピッツバーグ大学公文書館で実験記録を発見。その内容が公表されると、世界に衝撃が走りました。

米国政府は、グアテマラ政府への謝罪と、連邦政府による調査委員会の設置を発表。グアテマラも同様に調査委員会を立ち上げ、被害者への賠償問題に取り組みました。しかし、公式に認定された被害者はごく一部であり、未だに多くの被害者とその遺族が苦しんでいる現状があります。

実験の概要と背景

実験は、アメリカ公衆衛生局とアメリカ国立衛生研究所の主導の下、1946年7月から1948年12月にかけて実施されました。当時の米国では梅毒や淋菌の感染者が多く、その治療薬として期待されたペニシリンの効果を検証するため、グアテマラが実験場所として選ばれました。

グアテマラが選ばれた背景には、当時、米国が強い影響力を持っていたという政治的な事情に加え、米国留学経験のあるグアテマラ人医師が、この実験を提案したという説もあります。倫理的な配慮を欠いたこの実験計画は、医学の発展という名の下に行われた、人権侵害と言える行為でした。

被験者と実験内容

実験の対象者は、グアテマラの囚人、兵士、売春婦、孤児、精神病院の患者など、社会的に弱い立場に置かれた人々でした。彼らの多くは、実験の内容や感染の危険性を知らされないまま、梅毒や淋菌に感染させられました。

特に、売春婦に対しては、意図的に性病感染者を接触させるという、残虐な方法が用いられたという証言もあります。実験後、一部の被験者にはペニシリン治療が行われましたが、多くは治療を受けられず、感染症の悪化により死亡したケースも少なくありませんでした。報道によると、1951年までに少なくとも69人が死亡したとされていますが、実際の被害者数は更に多い可能性があります。

倫理的課題と歴史的反省

グアテマラ人体実験は、医学研究における倫理規定の欠如と、人権軽視の重大さを改めて浮き彫りにしました。この実験は、被験者の人格と権利を完全に無視した、許し難い人道に対する犯罪です。

この事件は、医学研究における倫理審査の重要性と、人権尊重の必要性を改めて世界に訴えかけるものとなりました。今後も、このような悲劇が二度と繰り返されないよう、医学研究の倫理に関する国際的な議論と協調体制の構築が不可欠です。この事件を教訓として、医療従事者はもちろん、すべての人が人権尊重の意識を高め、倫理的な問題に対して敏感になるべきです。歴史の負の遺産を忘れず、未来への教訓として受け止め続けることが重要です。

参考文献

性病の人体実験で83人が死亡　グアテマラで米科学者ら - MSN産経ニュース (2011年8月30日)
グアテマラ性病人体実験、規定放棄で1300人感染＝米大統領委 | Reuters (2011年8月30日)

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