グスタフ・クルップ

グスタフ・クルップ：クルップ家当主とナチス政権下のドイツ工業

グスタフ・クルップ・フォン・ボーレン・ウント・ハルバッハ (1870-1950) は、ドイツにおける巨大産業コングロマリット、クルップの第4代当主として知られています。外交官の父を持つ彼は、自身も外交官としてキャリアをスタートさせ、ワシントンD.C.、北京、バチカンなどで勤務しました。しかし、彼の名は、クルップ家との縁談と、その後のドイツ工業、そして第二次世界大戦における役割によって歴史に刻まれることになります。

クルップ家への入籍と企業経営

1906年、グスタフはクルップ家の相続人であるベルタ・クルップと結婚しました。彼女の父、フリードリヒ・アルフレート・クルップは1902年に不祥事を原因とする自殺をしており、その結果、クルップ社の経営はベルタと彼女の母マルガレーテが引き継いでいました。グスタフはドイツ皇帝ヴィルヘルム2世の紹介によりベルタと結婚、クルップ家の一員となり、1909年にはクルップ社の取締役会議長に就任しました。

第一次世界大戦前夜、クルップ社はドイツにおける重火器製造で事実上の独占的地位を有していました。戦争勃発当初は海外市場を失いましたが、ドイツと中央同盟国からの武器需要の急増によって巨額の利益を得ました。「ディッケ・ベルタ」として知られる重榴弾砲は、その代表的な製品の一つであり、その愛称は妻ベルタに由来すると言われています。

戦間期とナチス政権

第一次世界大戦後のヴェルサイユ条約はドイツの軍備を制限し、クルップ社にも大きな打撃を与えました。そのため、クルップ社は経営多角化を行い、農業機械や一般消費財の生産に力を入れたものの、戦争で得た巨額の利益に対する批判は内外から絶えませんでした。しかし、クルップ社はオランダやスウェーデンの子会社を通じて、ひそかに大砲製造を継続していました。1930年代には戦車や潜水艦の製造も再開しています。

グスタフは1921年から1933年までプロイセン州国務院のメンバーを務め、当初はナチスに反対していました。しかし、ナチスはクルップ社の労働組合の解散や再軍備による軍需増大を約束し、グスタフの支持を取り付けました。彼はナチス政権下のドイツ工業連合会会長、そしてナチスの政治資金調達組織の議長を務め、政権を支援することになります。

第二次世界大戦とニュルンベルク裁判

第二次世界大戦中、クルップ社は軍艦、潜水艦、戦車、軍用トラック、重砲などの製造を行い、その規模は巨大でした。「シュベーレ・グスタフ」と呼ばれる巨大な80cm列車砲は、彼の名に由来するものです。しかし、クルップ社は強制労働を強いたとされており、約70,000人の強制収容所犠牲者がクルップ社の劣悪な労働条件によって死亡したと推定されています。クルップ社はアウシュヴィッツ強制収容所の近隣にも工場を持っていました。

グスタフは1939年頃から健康を害し、1941年には脳卒中を患いました。1943年に息子のアルフリートに経営を譲渡するまで、彼はクルップ社の象徴的存在であり続けました。ナチス政府はクルップ社の重要性を考慮し、「クルップ法」を制定し、相続税を免除することで、クルップ社の解体や売却を防いでいます。

戦後、グスタフはニュルンベルク裁判で戦犯として起訴されましたが、高齢で寝たきりだったことから起訴は取り下げられました。しかし、彼の息子アルフリートを含むクルップ経営陣は、クルップ裁判で戦時中の活動について問われました。グスタフは1950年、オーストリアで亡くなりました。彼の生涯は、ドイツ工業史、そして20世紀の世界史における複雑な一章を象徴するものです。

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