グスタフ・フォン・カール

グスタフ・フォン・カール：バイエルン保守派の政治家

グスタフ・フォン・カール（1862年11月29日 - 1934年6月30日）は、ドイツのバイエルン王国、そしてバイエルン州で活躍した政治家です。彼は保守的な政治家として知られ、特に第一次世界大戦後の混乱期において、バイエルン州の政治を主導しました。

生い立ちと初期のキャリア

カールは、バイエルン王国のヴァイセンブルクで、行政裁判所長官の息子として生まれました。ミュンヘンの大学で法学を学んだ後、弁護士として活動しました。1902年にはバイエルン王国内務省に入省し、1907年にはオーバーバイエルンの知事に任命されました。1911年には、民芸品保護の功績により騎士の称号を授与されています。

バイエルン州首相として

第一次世界大戦後、ドイツ帝国が崩壊し、ヴァイマル共和国が成立すると、カールはカトリック保守政党であるバイエルン人民党に所属しました。彼は党内でも右派に属し、自由主義者、社会主義者、共産主義者を嫌い、君主制復古を強く支持していました。1920年、カップ一揆の影響を受けて、バイエルンでも右翼勢力が台頭し、カールはその中心人物として、無血クーデターによりバイエルン州首相に選出されました。

カールはバイエルン州の独立を目指しましたが、中央政府の圧力により1921年に首相の座を追われました。

バイエルン州総督として

1923年、ルール地方占領や中央政府の政策に対する不満が高まる中、カールはバイエルン州総督に任命され、バイエルンの行政と立法を掌握しました。彼は「祖国を救済するためのバイエルンの使命」を掲げ、ヴァイマル共和政を打倒し、バイエルンに大幅な自治権と王政復古を認めさせることを目指しました。

カールは当初ナチ党と対立していましたが、中央政府との抗争の中で次第に接近していきました。彼は、ナチ党を含む右翼勢力との連携を深め、ベルリン進軍を計画しますが、最終的には日和見的な態度を取りました。

ミュンヘン一揆とその後

カールの煮え切らない態度に不満を抱いたアドルフ・ヒトラーは、1923年11月8日にミュンヘン一揆を起こしました。カールは他の州高官と共にヒトラーに拘束され、協力を強いられましたが、その後脱出し、一揆鎮圧に協力しました。この一揆は失敗に終わり、カールはその後、バイエルン州総督を辞任しました。

ミュンヘン一揆後、カールは裁判で悪役として扱われましたが、1924年から1927年までバイエルン州行政裁判所の裁判長を務めました。

「長いナイフの夜」と悲劇的な最期

1934年6月30日、「長いナイフの夜」事件で、カールはナチス親衛隊によって誘拐され、ダッハウ強制収容所近くで殺害されました。彼の死は、ミュンヘン一揆における「裏切り」に対する報復とされています。当初、当局はカールの死を隠蔽しましたが、海外で報道されると大きな反発を招きました。

カールの評価

カールは慎重な性格のため、しばしば決断をためらう人物として描かれます。ヘルマン・ゲーリングからは「永遠に準備している男」と酷評されました。しかし、彼の生涯は、激動の時代における政治的駆け引きと悲劇を象徴しており、歴史の中にその名を刻んでいます。


-以下出典-

阿部良男『ヒトラー全記録 20645日の軌跡』柏書房、2001年。
ジョン・トーランド 著、永井淳 訳『アドルフ・ヒトラー 上』集英社、1979年。
桧山良昭『ナチス突撃隊』白金書房、1976年。
ヨアヒム・フェスト 著、赤羽竜夫 訳『ヒトラー〈上〉』河出書房新社、1975年。
* Picture of Gustav Ritter von Kahr Historisches Lexikon Bayerns

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