グラドゥス・アド・パルナッスム

「グラドゥス・アド・パルナッスム（Gradus ad Parnassum）」は、ラテン語で「パルナッソス山への階梯」という意味を持ちます。ここで言う「階梯」とは、段階やステップを指し、パルナッソス山が芸術や学問の聖地とされていたことから、この言葉は、頂点を目指すための段階的な教えや訓練を意味するようになりました。このため、「グラドゥス・アド・パルナッスム」という題は、芸術、特に音楽の分野における教則本や練習曲集によく用いられてきました。

代表的な例として、以下のものが挙げられます。

ヨハン・ヨーゼフ・フックスの対位法教本（1725年）
フックスの教本は、対位法を学ぶ上で古典的な存在とされており、音楽理論の基礎を築く上で重要な役割を果たしました。この教本は、音楽学生にとって必須の学習教材として、長年にわたり使われ続けています。

ムツィオ・クレメンティが作曲した指の練習のための教本（1817年、1819年、1826年）
クレメンティの教本は、当時のピアノ学習者にとって非常に貴重なものでした。なぜなら、当時、指の訓練に特化した練習曲は少なかったからです。この教本は、ピアノ演奏の基礎技術を向上させるために、広く利用されました。しかし、後年、クロード・ドビュッシーは、「子供の領分」（1908年）の第一曲「グラドゥス・アド・パルナッスム博士」という曲で、この練習曲集を皮肉的に引用しました。これは、ドビュッシーが、古典的な練習曲の機械的な反復練習に批判的な見解を持っていたことを示唆しています。

* カール・チェルニーの「新グラドゥス・アド・パルナッスム（Nouveau Gradus ad Parnassum）」
チェルニーも、「新グラドゥス・アド・パルナッスム」という題で、練習曲集を作曲しました。これは、彼の練習曲に対する意欲と、伝統的な教則本への敬意を表しています。チェルニーの練習曲は、ピアノの技術向上に不可欠な教材として、現在でも多くの音楽学校で使用されています。

「グラドゥス・アド・パルナッスム」という言葉は、単に教則本の題名としてだけでなく、芸術や学問における向上への道筋、目標達成のための段階的な努力を象徴する言葉として、広く認識されています。それは、目標達成には、段階的な学習と訓練が必要であることを示唆しており、あらゆる分野で、自己の成長を促すための重要な概念として捉えられています。

もう一度検索