ムツィオ・クレメンティ

ムツィオ・クレメンティ：多才な音楽家の生涯

ムツィオ・クレメンティ（Muzio Filippo Vincenzo Francesco Saverio Clementi, 1752年 1月23日 - 1832年 3月10日）は、イタリアのローマで生まれ、イギリスのイヴシャムで没した作曲家、ピアニスト、教育者、編集者、出版業者、楽器製造業者として多岐にわたる才能を発揮した人物です。

生涯

1752年、銀細工師の父とスイス人の母のもと、7人兄弟の長男として誕生。幼少期から音楽に強い関心を示し、6歳でソルフェージュ、7歳で通奏低音を学び始めました。9歳でオルガニストの試験に合格、12歳でオラトリオを作曲・初演するなど、早くから音楽の才能を開花させました。

14歳で地区教会のオルガニストに就任した後、イギリスへ渡り、特別な教育を受ける機会がないながらも、自ら練習計画を立ててピアノの研鑽を積みました。23歳頃にはロンドンでチェンバロ奏者として活動し始め、27歳で王立劇場の指揮者に就任。作品2のソナタは大きな反響を呼びました。28歳にはパリでマリー・アントワネットの前で演奏、29歳にはウィーンでモーツァルトと競演しましたが、モーツァルトからは酷評されたという逸話も残っています。

その後、約20年間ロンドンに滞在し、ピアニスト、教師、作曲家として名を馳せました。また、ピアノ製作や出版事業にも携わり、ベートーヴェンの楽譜出版にも関わっています。1798年頃からはピアノ製作会社を共同で設立・運営し、1802年から1810年にかけては弟子を連れてヨーロッパ各地を遍歴。ピアノの販路拡大に努めました。

1804年に結婚しますが、翌年には妻を亡くし、1811年に再婚。1813年にはロンドンのフィルハーモニック協会の常任指揮者を務めました。1817年にはピアノ練習曲集「グラドゥス・アド・パルナッスム」の出版を開始。1832年に80歳で亡くなり、ウェストミンスター寺院に埋葬されました。

教育者としての側面

クレメンティは教育者としても優れており、多くの著名なピアニストを育てました。弟子には、ジョン・フィールド、カルクブレンナー、クラーマー、モシェレスなどがいます。特にフィールドは、クレメンティの楽譜を売り歩くセールスマンやデモンストレーターとしても働いていたという説があります。

作品

クレメンティは、約100曲のピアノソナタをはじめ、練習曲集、交響曲、小編成オーケストラ曲、ピアノ三重奏曲など、幅広いジャンルの作品を残しました。特に1780年代に書かれたソナタは、古典派[[音楽]]の交響的ソナタとして、ベートーヴェンにも影響を与えたとされています。ベートーヴェンは、ピアノ曲に関してはモーツァルトよりもクレメンティの作品の方が優れていると評価したとされています。

しかし、一般的に最も知られているのは、ピアノ初級者のための教材として用いられる「6つのソナチネ」作品36です。このソナチネは、ピアノの基礎技術と知識が詰まっており、多くのピアノ学習者に親しまれています。また、練習曲集「グラドゥス・アド・パルナッスム」も重要な作品です。近年では、作品全集の新版刊行や、ピアノソナタ全曲録音など、再評価の機運が高まっています。

クレメンティのソナチネ

クレメンティの「6つのソナチネ」作品36は、元々裕福な貴族の娘のために書かれた教育的な作品で、番号が増すにつれて難易度が高くなっています。何度も改訂されたため、楽譜によって指使いやフレーズ、臨時記号などが異なり、混乱が見られることもあります。特に有名な第1番の第1楽章は、音楽之友社版と全[[音楽譜出版社]]版でフレーズが異なっています。この問題に対応するため、全[[音楽譜出版社]]からは初版に基づく改訂版も出版されています。このソナチネは、簡潔なソナタ形式、フレーズ、スケールなど、ピアノの基礎が学べる重要な作品ですが、その研究はあまり進んでいないという現状があります。フランスの作曲家エリック・サティは、1917年にこのソナチネ第1番を元に「官僚的なソナチネ」を作曲しています。

音楽史におけるクレメンティ

クレメンティは、作曲家、ピアニスト、教育者、出版業者、楽器製造業者として、音楽史において重要な役割を果たしました。彼の作品は、ベートーヴェンをはじめとする後世の作曲家たちに影響を与え、ピアノ音楽の発展に大きく貢献しました。また、教育者として多くの優れたピアニストを育成し、ピアノ音楽の普及にも貢献しました。

近年の評価

近年、クレメンティの作品は再評価の動きが進んでおり、全曲録音や作品全集の刊行がなされています。これは、クレメンティの音楽が単なる練習曲にとどまらず、芸術的価値の高いものであることが認識されてきたためでしょう。ピエトロ・スパダによるピアノソナタ全曲録音や「グラドゥス・アド・パルナッスム」全曲録音は、クレメンティの音楽をより深く理解するための貴重な資料となっています。また、ハワード・シェリー、カルロ・グランテなど、現代のピアニストたちによる演奏も、クレメンティの音楽を新たな視点から捉えるきっかけとなっています。

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