グラム・パーソンズ

イングラム・セシル・コナー3世、音楽界ではグラム・パーソンズとして広く知られる人物は、1946年11月5日にアメリカ合衆国フロリダ州に生を受けたシンガーソングライターです。彼の生家は裕福な農家でしたが、家族は複雑な問題を抱えていました。父親は自殺、母親はアルコール依存症と鬱病に苦しみ、後に再婚してパーソンズ姓となりますが、彼が高校を卒業した日に亡くなっています。

こうした逆境の中、パーソンズは幼い頃から音楽に救いを求めました。1956年のエルヴィス・プレスリーの公演に感銘を受け、音楽の道に進むことを決意します。ロックンロールから始まり、フォークバンドを経て、やがてカントリーミュージックに深く傾倒していきます。学業では優秀ではなかったものの、ハーバード大学に入学するという異色の経歴も持ちますが、音楽への情熱からすぐに大学を去りました。

ボストンでインターナショナル・サブマリン・バンドを結成し、音楽キャリアをスタートさせた彼は、1967年にカリフォルニア州へと活動拠点を移します。翌年、アルバム『セーフ・アット・ホーム』を発表した後、名門バンド、ザ・バーズに加入しました。ここで彼はカントリーミュージックの要素をバンドに持ち込み、クリス・ヒルマンらメンバーとの共同作業により、歴史的なアルバム『ロデオの恋人』を生み出します。この作品は、ロックとカントリーを融合させた「カントリーロック」という新たなジャンル確立における金字塔とされています。

バーズ在籍中、パーソンズはローリング・ストーンズのメンバー、特にキース・リチャーズと親交を深めました。一方で、バンド内では自己主張が強く、報酬増やバンド名の変更を要求したり、グランド・オール・オプリでの予定外の演奏を行ったりするなど、軋轢が生じます。結局、『ロデオの恋人』完成後、ローリング・ストーンズとの時間を優先し、南アフリカ公演への参加を拒否したことが原因で、わずか数ヶ月でバーズを解雇されました。

1968年、バーズを共に脱退したクリス・ヒルマンらとフライング・ブリトー・ブラザーズを結成。このバンドでも、彼はカントリー、ロック、ソウルなどを独自に融合させたサウンドを追求し、『黄金の城』（1969年）、『ブリトー・デラックス』（1970年）といった名盤を発表しました。ローリング・ストーンズとの交流は続き、彼らの楽曲「ワイルド・ホース」を、ストーンズ自身の発表よりも先にレコーディングしています。

しかし、彼の抱える問題、特に薬物やアルコールへの依存は深刻化し、リハーサルやセッションへの無断欠席、遅刻が常態化しました。これが原因で、1970年にはフライング・ブリトー・ブラザーズからも解雇されてしまいます。

その後、ジャニス・ジョプリンらとの「フェスティバル・エクスプレス」ツアー参加を経て、本格的なソロ活動を開始。1973年に初のソロアルバム『GP』を発表しました。この作品にはジェームズ・バートンやリック・グレッチに加え、後に彼の重要な音楽的パートナーとなるエミルー・ハリスが参加し、その才能を遺憾なく発揮しましたが、商業的な成功には至りませんでした。

ソロ第2弾となるアルバム『グリーヴァス・エンジェル』の制作を進めている最中の1973年9月19日、パーソンズはカリフォルニア州ジョシュア・ツリーにて、薬物の過剰摂取により26歳の若さで急逝しました。彼の遺作となった『グリーヴァス・エンジェル』は翌1974年に発表され、その死後に彼の評価は高まっていきました。

グラム・パーソンズは、その短いながらも波乱に富んだ生涯の中で、カントリーミュージックをロック世代に広め、後の音楽シーンに多大な影響を与えたパイオニアとして記憶されています。「ローリング・ストーン誌が選ぶ歴史上最も偉大な100組のアーティスト」にも選ばれるなど、カントリーロック創始者の一人としての彼の功績は、今なお色褪せることがありません。

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