グリザイユ

グリザイユ（grisaille）とは、フランス語で「灰色」を意味する“gris”に由来する、単色で描かれる絵画技法のことです。一般的には灰色や茶色が用いられますが、作品によってはわずかに他の色が加えられることもあります。この技法は、特に装飾の分野で、レリーフの中に物を描く際に活用されてきました。

グリザイユで描かれた絵画は、モノクロームであることから、デッサンに似た印象を与えることがあります。また、写真の世界で言う「セピア調」の表現に近いとも言えるでしょう。しかし、イタリアでは「grisaglia」あるいは「キアロスクーロ」といった、別の意味を持つ言葉で表現されるため、注意が必要です。

グリザイユは、それ自体を装飾の目的として用いられるだけでなく、油彩の下絵として、あるいはエングレービング（版画）の元絵としても活用されました。フルカラーで絵画を完成させるには、多くの画家と時間を要するため、より手早く安価に作品を仕上げる手段として、グリザイユが選ばれることもありました。もちろん、美的効果を狙って、意図的にグリザイユの技法が用いられることもありました。

グリザイユの具体的な例

歴史を振り返ると、グリザイユは多くの作品に使用されてきました。ジョットは、スクロヴェーニ礼拝堂のフレスコ画の下部にグリザイユを用い、彫刻のような印象を与えています。また、ヤン・ファン・エイクは、三連祭壇画『ヘントの[[祭壇画]]』の翼の外側に、グリザイユで人物像を描きました。この場合も、彫刻を模倣する意図が感じられます。

システィーナ礼拝堂の天井画の一部や、ハンプトン・コート宮殿の大階段の装飾にも、グリザイユが用いられています。特に、ネーデルラントではグリザイユの伝統が深く根付いており、マルティン・ファン・ヘームスケルク、ヤン・ブリューゲル（父）、ヘンドリック・ホルツィウス、アドリアン・ファン・デ・フェンネなどの画家たちによって、数多くの作品が生み出されました。その流れは、レンブラントやヤン・ファン・ホイエンといった巨匠たちの時代にまで遡ることができます。

装飾写本の分野でも、利用できる色の制約から、ペンと水彩で描かれることが多く、ジャン・ピュッセルやマシュー・パリスなどの画家たちがこの分野を専門としていました。ルネサンス期の画家であるアンドレア・マンテーニャやポリドーロ・ダ・カラヴァッジオも、古典的な効果を狙い、古典彫刻やローマ[[美術]]を模してグリザイユを活用しました。

さらに、「グリザイユ」という言葉は、エナメルにおけるモノクロームの絵付けに対しても使用されます。ヨーク大聖堂の『5人姉妹の窓』は、窓に用いられたグリザイユ・ガラスの好例として知られています。

このように、グリザイユは絵画、装飾、写本、ガラス工芸など、幅広い分野で活用されてきた歴史ある技法です。その単色表現が、作品に独特の雰囲気や深みを与えることから、現代においても多くの人々に愛されています。

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