スクロヴェーニ礼拝堂

スクロヴェーニ礼拝堂：ジョットのフレスコ画が彩る贖罪の空間

スクロヴェーニ礼拝堂（Cappella degli Scrovegni）は、イタリアのパドヴァにある小さな礼拝堂です。別名「アレーナ礼拝堂」とも呼ばれるこの礼拝堂は、古代ローマの円形競技場（アンフィテアトルム）の跡地に隣接しています。1305年に完成したこの礼拝堂は、ジョット・ディ・ボンドーネによる一連のフレスコ画で世界的に有名で、西洋美術史において最も重要な作品の一つとされています。

礼拝堂は受胎告知と聖母マリアに捧げられており、ジョットのフレスコ画は聖母マリアの生涯と、人類の救済におけるマリアの役割を祝福する内容となっています。建設以前、この場所では約30年間、受胎告知を題材とした行列祈祷式や演劇が上演されていました。また、音楽理論家マルケット・ダ・パドヴァによるモテットも1305年5月25日に奉献されたと考えられています。

歴史的背景とジョットのフレスコ画

スクロヴェーニ礼拝堂は、高利貸で財産を築いたエンリコ・デッリ・スクロヴェーニによって創設されました。当時、高利貸はキリスト教の秘跡を受けることができないほどの重罪とされており、エンリコは自身の父の罪と、自身の免罪のために私財を投じてこの礼拝堂を建設しました。エンリコの父、レジナルド・デッリ・スクロヴェーニは、ダンテの『神曲』にも登場する高利貸しとして描かれています。近年の研究では、エンリコ自身も高利貸しであり、贖罪のために礼拝堂を建てたという説も出ています。エンリコの墓は礼拝堂の後陣（アプス）にあり、彼の肖像はフレスコ画『最後の審判』の中で、マリアに礼拝堂を捧げている姿で描かれています。

スクロヴェーニ礼拝堂は、表向きはスクロヴェーニ一族のための私的な礼拝堂でしたが、受胎告知の祝祭に関する公的な役割も担っていました。

ジョットのフレスコ画を除くと、礼拝堂には装飾はほとんどなく、円天井が特徴的です。『最後の審判』は礼拝堂入口上部の壁一面に描かれ、先述のエンリコの肖像もこの中にあります。四方の壁面は上・中・下の三段に分割されており、フレスコ画と装飾画が交互に配置されています。ジョットは各絵画の間を人工的な彩色大理石と小さな窪みで区切り、場面を分割しています。フレスコ画は、祭壇に向かって右上の壁から始まり、聖母マリアの生涯を描いています。その流れは、マリアの母アンナへの受胎告知から、エルサレム神殿へのマリア奉献、キリストの誕生、ヘロデ王による幼児虐殺、キリストの受難、復活、聖霊降臨へと続きます。

礼拝堂の壁面を埋め尽くすフレスコ画は、その感情表現、立体的な人物像、自然な空間描写で特筆すべきものです。特に、『ユダの接吻』で描かれているユダの肖像は、キリストを処刑へと導く裏切りの第一歩を象徴的に表しており、見る者に強い印象を与えます。

描かれている場面

スクロヴェーニ礼拝堂のフレスコ画には、「キリストの生涯」と「聖母マリアの生涯」が描かれています。特に、内陣アーチの中央部分を占める『受胎告知』の場面は、最も重要な絵画とされています。以下に、描かれている主な場面を列挙します。

神殿から追われるヨアキム
マリアの生涯 - 承前
キリストの生涯 - 承前
羊飼いに身を寄せるヨアキム
アンナへの受胎告知
神に子羊を捧げるヨアキム
ヨアキムの夢
黄金門の出会い
マリアの誕生
マリアの神殿奉献
マリアの婿選び
求婚者の祈り
マリアの婚約
婚約の行列
受胎告知の天使を遣わす神
受胎告知
エリザベト訪問
キリスト生誕
東方三博士の礼拝
幼児キリストの神殿奉献
エジプトへの逃避
幼児虐殺
神殿でのキリスト
キリストの洗礼
カナの婚礼
ラザロの復活
キリストのエルサレム入城
神殿清め
ユダの裏切り
最後の晩餐
弟子の足を洗うキリスト
ユダの接吻
キリストを引見するカイアファ
鞭打たれるキリスト
十字架磔刑への道行
磔刑
キリストへの哀悼
キリストの復活
キリスト昇天
聖霊光臨
最後の審判
悪徳と徳目の寓意

これらの場面は、ジョットの卓越した描写力によって、中世の人々の信仰生活と深く結びついていた聖書の世界を、鮮やかに現代に蘇らせています。

ギャラリー

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脚注

参考文献
Derbes, Anne, and Mark Sandona. The Usurer's Heart: Giotto, Enrico Scrovegni, and the Arena Chapel in Padua. Pennsylvania State University Press, 2008.
Derbes, Anne, and Mark Sandona, eds. The Cambridge Companion to Giotto. Cambridge University Press, 2004.
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Giuliano Pisani, Terapia umana e divina nella Cappella degli Scrovegni, in «Il Governo delle cose», dir. Franco Cardini, Firenze, n. 51, anno VI, 2006, pp. 97–106.
Giuliano Pisani, L’iconologia di Cristo Giudice nella Cappella degli Scrovegni di Giotto, in «Bollettino del Museo Civico di Padova», XCV, 2006, pp. 45–65.
Giuliano Pisani, Le allegorie della sovrapporta laterale d’accesso alla Cappella degli Scrovegni di Giotto, in «Bollettino del Museo Civico di Padova», XCV, 2006, pp. 67–77.
Giuliano Pisani, Il miracolo della Cappella degli Scrovegni di Giotto, in Modernitas – Festival della modernità (Milano 22-25 giugno 2006), Spirali, Milano 2006, pp. 329–57.
Giuliano Pisani, Una nuova interpretazione del ciclo giottesco agli Scrovegni, in «Padova e il suo territorio», XXII, 125, 2007, pp. 4–8.
Giuliano Pisani, I volti segreti di Giotto. Le rivelazioni della Cappella degli Scrovegni, Rizzoli, Milano 2008 (ISBN 9788817027229).
Giuliano Pisani, Il programma della Cappella degli Scrovegni, in Giotto e il Trecento, catalogo a cura di A. Tomei, Skira, Milano 2009, I – I saggi, pp. 113–127.
Stokstad, Marilyn; Art History, 2011, 4th ed., ISBN 0205790941
益田朋幸『ビザンティンの聖堂美術』中央公論新社、2011年。ISBN 978-4-12-004248-5。
関連項目
大塚国際美術館 - スクロヴェーニ礼拝堂内部を再現した施設がある
* 外部リンク
公式サイト
ヴァーチャル・ツアー
イタリア ウェブヴィジョン スクロヴェーニ礼拝堂フレスコ画の紹介動画

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