ローマ美術

古代ローマ美術：帝国の栄華を彩る芸術

古代ローマ美術は、共和制末期からコンスタンティヌス1世の時代までのローマ帝国で発展した美術様式を指します。その活動領域は、地中海沿岸地域、北アフリカ、ライン川以西のヨーロッパ、ユーフラテス川以西の中東地域に及びます。

ローマ美術の特徴

ローマ美術は、ヘレニズム美術の影響を強く受け、特に彫刻や絵画においてはギリシア美術を模倣する傾向が見られます。しかし、建築分野においては独自の発展を遂げ、コンクリート技術を駆使した大規模な建造物を多数建設しました。また、肖像彫刻や壁画は、当時の社会や文化を今に伝える貴重な資料となっています。

建築：革新的な技術と壮大なスケール

ローマ美術における最大の革新は、建築分野で達成されました。広大な領土を支配したローマ帝国は、都市建設に力を入れ、コンクリート技術を導入することで、パンテオンやコロッセウムのような巨大建造物を実現しました。コンクリートは、古代近東で発明されたものの、ローマ人はその強度と経済性を活用し、城塞だけでなく、モニュメントや公共建築物の建設にも応用しました。コンクリート造の建物は、石膏、レンガ、石、大理石で化粧され、色彩豊かな装飾や金メッキの彫刻で飾られることが多く、富と権力を誇示する手段となりました。ローマ建築の堅牢さは伝説的で、現存する建物の中には、今も使用されているものもあります。

共和制時代には、ギリシアとエトルリアの建築要素を融合させた円形寺院やアーチが発案されました。帝政初期には、皇帝たちがパラティーノの丘周辺に宮殿を建設するために、スラム街を破壊し、大規模な都市再開発が行われました。商業、政治、宗教、社会活動のための複合施設であるフォロが建設され、ユリウス・カエサルはフォロ・ロマーノを整備し、フォロ・ジュリアーノを建設しました。その後も、多くの皇帝によってフォルムが建設され、フォロ・ロマーノの東端には、古代ローマで最も有名な円形競技場であるコロッセオが建設されました。コロッセオは5万人を収容でき、剣闘士の戦いや模擬海戦などの見世物が行われました。ローマ市民の集合住宅であったインスラも重要な建築物で、多くの市民が生活していました。

トラヤヌス帝からハドリアヌス帝の時代にかけて、ローマ美術は最盛期を迎え、モニュメント、集会場、庭園、水道橋、浴場、宮殿などの大規模な建築プロジェクトが展開されました。アーチ、コンクリート、ドームなどの技術が発展し、ヴォールト天井の建設が可能になり、宮殿、公共浴場、バシリカなどの壮大な建築物が建てられました。パンテオン、ディオクレティアヌス浴場、カラカラ浴場はドーム建築の傑作です。パンテオンは、天井の中央に開口部を持つ古代世界の最も保存状態の良い神殿であり、球体を収める容器のような形状をしています。これらの偉大な建築物は、後のルネサンス建築家たちに大きな影響を与えました。コンスタンティヌス帝の時代には、コロッセオ近くにコンスタンティヌスの凱旋門が建設されました。アーチを利用したローマ水道は、帝国内の各都市に水を供給し、その遺跡は現在でも見ることができます。特に、3層のアーチで構成されたポン・デュ・ガールやセゴビアの水道橋は、ローマ建築の技術力の高さを物語っています。古代ローマ建築は、ビザンティン建築やイスラム建築など、後世の建築にも大きな影響を与えました。

彫刻：肖像彫刻とギリシア彫刻の模倣

ローマ美術では、肖像彫刻が発達しました。現実の人物や出来事を表現する習慣は、多くの個性的な肖像彫刻や、トラヤヌス円柱の浮き彫りのような叙事的な作品を生み出しました。これは、神話で比喩的に表現するギリシア美術とは異なる、ローマ美術の特色です。一方で、ウェヌスやメルクリウスのような神像は、ギリシア彫刻の模刻が多く制作されました。ギリシア時代の巨匠の原作はほとんど消失しているため、ローマ時代の模刻を通じてのみ、その作風を知ることができます。ルネサンス以降の西欧におけるギリシア彫刻のイメージは、ローマ人のフィルターを通して作られたものです。プリマポルタのアウグストゥスは、ギリシア彫刻の影響を受けつつも、ローマ美術の代表作として知られています。

絵画：壁画と肖像画

古代ローマの絵画に関する知識は、ポンペイとヘルクラネウムで発掘された壁画に大きく依存しています。特に、ヴェスヴィオ火山の噴火で埋没したポンペイの壁画は、当時の生活様式や芸術観を伝えています。4世紀から5世紀にかけてギリシアからローマに輸出された絵画や、イタリアで木の板に描かれた絵画はほとんど残っていません。壁画の多くは乾式法で描かれましたが、湿式フレスコも存在していました。モザイクや文献から、ギリシアの作品がローマで模倣されていたことがわかりますが、古代ローマに移住したギリシア人芸術家の名前も記録されているため、混乱のもととなっています。壁画以外では、エジプトのミイラに付属していたミイラ肖像画が主要な遺品です。これらの肖像画は、2世紀から4世紀にかけて蜜蝋画やテンペラ画で描かれ、個人の容貌をリアルに表現しています。

1、2世紀の作品には、ヘレニズム絵画を受け継ぐ古典的写実主義が見られますが、3世紀以降には、矮小化や抽象化が目立つようになります。ポンペイ秘儀荘の壁画、ルーブル美術館の美少女の肖像画、アレクサンドロス大王のモザイク画、シチリアのアルメリーナ荘のモザイクなどが代表的な作品です。

古代ローマの絵画は、動物、静物、風俗、肖像、神話など多様な主題を扱っています。ヘレニズム時代には、羊飼いや羊の群れ、田舎の風景などが描かれ、エロティックな場面が描かれることもありました。カタコンベの壁には、初期キリスト教の主題が異教の像と混ざって描かれています。古代ローマの壁画は、通常四つの時代に区分されます。

古代ローマ絵画の最大の貢献は、風景画の発展です。1500年後の透視図法のように数学的ではありませんが、透視図法が導入されました。表面の質感や陰影、色合いは正確に表現されましたが、空間の奥行きやスケールは正確ではありませんでした。風景の中には、庭園や都市の建物、神話のエピソードなどが描かれています。

古代ローマの静物画は、実物と見紛うように描かれた壁龕や棚に置かれた、果物、動物、魚介類などの日常的な物を描いています。

肖像画では、プリニウスがローマの肖像画の衰退を嘆いています。木製の板に描かれた板絵は、非常に少ない作例しか残っておらず、200年頃のセウェルス家の肖像とファイユーム肖像画が代表的です。ファイユーム肖像画は、ミイラの顔の部分に取り付けられていたもので、非常にリアルな表現となっています。

風俗画では、ローマ人が賭け事や音楽などの娯楽を楽しむ様子が描かれています。また、神が娯楽を楽しむ様子も描かれています。

凱旋画は、戦勝後の凱旋や戦争の逸話、征服した地方や都市、地図などを描いたものです。ヨセフスは、ウェスパシアヌスとティトゥスによるエルサレム略奪の際に描かれた凱旋画について記述しています。これらの絵画は失われましたが、サルコファガスや凱旋門のレリーフなどに影響を与えた可能性があります。

工芸：ガラス工芸と金属工芸

1世紀初頭頃に、ローマ帝国で吹きガラスの技術が発明され、ガラス工芸が大きく発展しました。カメオ、ゴールドサンドイッチ、ミルフィオリなどの製法が開発され、その製品は帝国の外にも輸出されました。有名な作品には、「ポートランドの壺」やヒルデスハイムの遺宝のような銀器があります。