グリッケンハウス・007 LMH

グリッケンハウス・007 LMH：栄光と終焉の物語

映画監督出身のジェームズ・グリッケンハウス率いるスクーデリア・キャメロン・グリッケンハウスが、FIA世界耐久選手権（WEC）参戦のために開発したプロトタイプレーシングカー、グリッケンハウス・007 LMH。ニュルブルクリンク24時間レースへの参戦経験を活かし、コネチカット州ダンベリーを拠点に開発されたこのマシンは、トヨタ・GR010 HYBRIDに続く、LMH規格に則った2台目の車両として注目を集めました。

開発の軌跡：妥協なき挑戦

当初はアルファロメオ製のV6ツインターボエンジンを搭載する予定でしたが、2019年の規定改訂による出力向上要求を受け、ピポ・モチュール社がチューニングしたラリークロス用の直4ターボエンジンをベースにしたV8ツインターボに変更。その後、2020年のLMDh規定発表に伴い出力は引き下げられましたが、同社製エンジンはそのまま採用されました。

1960年代の耐久レースで活躍したローラ・T70からインスピレーションを得たフロントデザイン、MR駆動方式、ハイブリッドシステムと四輪駆動システム非採用など、独自の設計思想が随所に見て取れます。リアウィング上にはヨーコントロールを高めるための6枚の垂直フィンが配置されています。

WEC参戦：輝きと苦悩

2021年、満を持してWEC参戦を表明したものの、開発遅延のため開幕戦を欠場。第2戦ポルティマオでデビューを果たし、第3戦モンツァでは2台体制での参戦となりました。チーム運営はポディウム・アドバンスド・テクノロジーズ、そして名門ヨースト・レーシングの協力の下で行われました。

初挑戦となったル・マン24時間レースでは4-5位で完走。レースファンに衝撃を与えました。しかし、バーレーン最終2連戦へのエントリーは見送られました。

2022年ル・マン24時間レースでは、2台ともトラブルに見舞われながらもアルピーヌを上回り、総合3位を獲得。米国籍チームとしては2005年以来の快挙となりました。しかし、WEC富士を含む、その後のレースイベントへの参加は見送られ、本来義務付けられているハイパーカークラスのフル参戦要件についても、FIAの柔軟な判断により例外的に認められました。

2023年も、第5戦モンツァまで参戦した後、終盤2戦を欠場。そして同年10月、2024年以降のWEC参戦しないことを発表し、007でのレース活動に幕を閉じました。当初検討されていたウェザーテック・スポーツカー選手権への参戦も実現しませんでした。

まとめ：挑戦の軌跡

グリッケンハウス・007 LMHは、独自の技術と開発力で、WECという世界最高峰の舞台で存在感を示した、挑戦的なマシンでした。開発の遅れや、参戦継続の困難さなどの様々な課題に直面しながらも、ル・マン24時間レースでの表彰台獲得という大きな成功を収めたことは、チームの努力と情熱を物語っています。その挑戦の軌跡は、モータースポーツ史に長く記憶されることでしょう。 グリッケンハウス・007 LMHは、小さなチームが世界と戦った、忘れがたい物語を刻み込みました。

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