グリュエンフェルド・ディフェンス

グリュエンフェルド・ディフェンス

グリュエンフェルド・ディフェンス（Grünfeld Defence）は、チェスにおける重要なオープニングの一つです。その基本形は、白が1.d4、黒が1...Nf6、白が2.c4、黒が2...g6、白が3.Nc3、そして黒が3...d5と指し進めることで現れます。このオープニングは、黒が序盤から積極的にセンターのポーン交換を挑み、白にセンターを広く占めさせることを許容しつつ、自陣のキングサイドにビショップをフィアンケット（g6に配置）して、その後のカウンターアタックによって白のセンターを崩壊させることを目指す戦略的な定跡です。

キングズ・インディアン・ディフェンスと類似した駒組みが現れることもありますが、グリュエンフェルド・ディフェンスはより変化が絞られている傾向があります。日本語での表記としては、「グリュンフェルド・ディフェンス」と記載される書籍も見られます。この名称は、20世紀初頭に活躍したオーストリアのチェスプレイヤー、エルンスト・グリュエンフェルドの名に由来しています。

主要な変化

グリュエンフェルド・ディフェンスにおける主な変化は、白の4手目によって分類されます。

エクスチェンジ・ヴァリエーション

白が4手目で4.cxd5とポーンを交換することから始まるのが、最も頻繁に指されるエクスチェンジ・ヴァリエーションです。基本的な手順は 4...Nxd5 5.e4 Nxc3 6.bxc3 Bg7 と続きます。この手順は特に 7.Bc4 c5 と進む形がよく現れ、1970年のジーゲン・チェスオリンピックにおけるボリス・スパスキー対ボビー・フィッシャー戦で採用されたことでも知られています。現在でもこのラインが主流とされています。

黒の4手目: 4...Bg7と先にフィアンケットする手は、白に5.e4と指されてd5のポーンが守られてしまうため、黒にとって不利になる可能性があります。
白の5手目: 5.Bd2や5.g3といった別の選択肢もあります。5.Bd2に対しては 5...Bg7 6.e4 Nxc3 7.Bxc3と進行し、5.g3に対しては 5...Bg7 6.Bg2 Nb6 7.Nf3 0-0 8.0-0 Nc6 9.d5という展開が考えられます。
黒の5手目: 5...Nf6と指すと白にセンターを完全に制圧されてしまい、黒が苦しくなります。また、5...Nb6も 6.Be3や6.h3と指され、いずれも白が指しやすい局面を迎えやすいです。
黒の6手目・7手目: 6...Bg7と7...c5の手順は前後することがあります。以前は6...c5を先に指す方が良いとされていましたが、最近では6...Bg7を先に指す形が一般的です。ただし、6...c5と先に指した場合、7.Bc4 Bg7と進む以外に、7.Nf3と指す手もあり、この場合は 7...Bg7 8.Bb5+ Bd7 9.Bxd7+ Qxd7と進行します。
白の7手目: 7.Bb5+と指すと、黒は 7...c6, 7...Bd7, あるいは 7...Nd7と応じることができ、その後 8.Bc4 0-0 9.Ne2 b5 10.Bb3 Bb7 11.0-0 c5と進むと、黒が非常に指しやすい局面となります。
白の8手目: 8.dxc5?と指すと、黒のビショップによって白のルークとの交換（8...Bxc3+）を強要され、白が駒損となります。また、8.Nf3と指すのも 8...Nc6 9.Be3 0-0 10.h3 Qa5 11.Qd2 cxd4 12.cxd4 Qxd2+ 13.Kxd2 Rd8 14.Bd5 e6!と進むと黒が有利になります。
白の9手目: 9.d5と進めるのは、9...Ne5 10.Bb5+ Bd7 11.Bxd7+ Qxd7 12.0-0 Nc4 13.Bf4 0-0 14.Qc1 Rfc8 15.Rd1 b5と進み、黒が有利な展開となります。
白の10手目: 10.h4とキング側を攻めるのは白にとって良くありません。1970年のナランハ対ポルティシュ戦では、10.h4 cxd4 11.cxd4 Qd6 12.Rc1 Rd8 13.d5 Ne5 14.Qb3 Bd7 15.f3? b5! 16.Bd3 Qb4+で白が投了しています。
白の12手目: 12.f4, 12.Qe1, 12.Qd2, 12.Qa4, 12.Kh1といった手も指されます。12.f4は比較的古くから採用されています。12.Qe1は1966年のスパスキー対フィッシャー戦でも指されました。12.Qd2は比較的新しい定跡手で、1975年のバラショフ対トゥクマコフ戦やグリゴリッチ対スメイカル戦で指されています。

スパスキー対フィッシャー戦（1970年）では、エクスチェンジ・ヴァリエーションから進行し、途中黒が有利な局面を迎えたものの、フィッシャーがドローを嫌い無理な攻撃を仕掛けた結果、スパスキーが勝利しました。

スミスロフ・ヴァリエーション

白が4手目で4.Nf3と指す変化は、スミスロフ・ヴァリエーションと呼ばれます。代表的な手順は 4...Bg7 5.Qb3 cxd5 6.Qxc4 0-0 7.e4 Bg4 8.Be3 Nfd7 9.Qb3 Nb6 です。白の5手目には5.Qa4+や5.e3（クローズド・システム）といった手も存在します。

黒の5手目: 5...c6と指すのは 6.cxd5 cxd5 7.Bg5 e6 8.e3 0-0 9.Bd3 Nc6 10.h3 b6 11.Ne5と進み、白が指しやすい形になりがちです。
黒の7手目: 7...Nc6, 7...c6, 7...a6といった他の選択肢もあります。7...Na6と進んだ1960年のレフ・ポルガエフスキー対ヴィクトール・コルチノイ戦は、d5のポーンの突き出しなどを経て形勢不明の複雑な局面となりました。

その他の変化

白の4手目には、エクスチェンジ（4.cxd5）やスミスロフ（4.Nf3）以外にも、以下のような手が見られます。

4.Qa4+ Bd7 5.Qb3 Nc6 6.cxd5 Nxd4
4.Qb3 cxd5 5.Qxc4 Be6 6.Qb5+ Bd7 7.Qxb7 Bc6 8.Qb3 Qxd4
4.Bg5 Ne4 5.cxd5 Nxg5 6.h4 Ne4 7.Nxe4 Qxd5 8.Nc3 Qa5
* 4.Bf4 Bg7 5.Nf3 0-0 6.Rc1 c6 7.e3 Be6 8.Nd2 Nbd7

これらの変化も、それぞれ異なる戦略や複雑な戦術的な局面をもたらす可能性があります。

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