グリースガン (工具)

グリースガンとは

グリースガンは、機械の潤滑に用いるグリースを注入するための専用工具です。主に、機械に設けられたグリースニップルと呼ばれる注入口に圧着または噛み合わせて使用します。日本産業規格（JIS）では、JIS B 9808「グリースガン」として規格化されており、その構造や性能に関する基準が定められています。

歴史

機械部品への適切な注油は、機械の寿命を維持する上で非常に重要です。20世紀初頭に開発されたグリースガンとグリースニップルは、現在では機械への注油を簡単に行うための一般的な方法として広く利用されています。

1916年、アーサー・グルボルグがネジタイプのグリースガンとグリースニップルを発明しました。彼はシカゴのダイカスト設備の共同所有者の息子で、ダイカスト機の油カップに1日に数回油を補充する作業をしていたことがきっかけでした。彼の発明したグリースガンは、金属ホース端に特殊な接続部を持つネジ式で、アーサーとその父はこれを「The Alemite High-Pressure Lubricating System」と名付けました。

1918年には、アーサーはこの発明をアメリカ陸軍に持ち込み、トラックでのテストを経て、同年7月10日に標準的な機材として採用されました。1922年までには、さまざまな産業に対応するため、特に過酷な環境下でも使用できる丈夫なシステムとして、アレマイト社が「ボタンヘッド」システムを導入しました。また、オートバイ用の「ジュニアボタンヘッド」や、大型建設機械向けの「ジャイアント」バージョンも開発され、幅広い分野での利用が進みました。

自動車産業への導入は、アレマイト社の規模を拡大する上で大きな転機となりました。アーサーが特許を取得してからわずか5年後には、乗用車の車載工具としてアレマイト製の手動グリースガンとホースアッセンブリーが搭載されるようになりました。これにより、グリースガンは一般市民にも普及し、多くの自動車の注油作業がオーナー自身で行われるようになりました。

1924年には、オハイオ州クリーブランドのAllyne-Zerk社がAlemite社に買収され、Zerkの注油器具と手動グリースガンがAlemite社の製品ラインナップに加わりました。Oscar Zerkの名前にちなんで名付けられたZerkデザインは、Alemite社のピンタイプに比べて先端部の部品が非常に小さく、ホースカプラーとグリースガンをロックしない方式でした。作業者がフィッティングにガンのカプラーを押し付けることでシール性を維持する、いわゆる「プッシュタイプシステム」として知られるようになりました。

1930年には、Alemite社が新しい油圧継手を導入しました。現在の油圧継手は、この初期のモデルと非常に類似しており、現在でも世界で最も普及しているグリースアプリケーションシステムの一つです。

分類

JIS規格では、グリースを押し出す方式によって、プッシュ式（記号P）とレバー式（記号L）に分類されます。レバー式には、グリースを充填または装填する方式により、手詰形とチューブ形（カートリッジ形）があります。また、注油口金の種類として、グリースニップルに圧着させる構造のストレート式、噛み込む構造のチャック式・ホース式があります。呼び容量は、グリースの容量をミリリットル（ml）で表します。JISでは、プッシュ式は50, 100, 150ml、レバー式は100, 150, 200, 300mlの容量が規定されています。

操作方式としては、手動式の他に、圧縮空気を用いるものや電動式の製品も存在します。

性能

JISでは、グリースの排出量について、グリースニップル内部に0.5 MPaの圧力がかかった状態で、プッシュ式は0.3 cm3(ml)以上、レバー式は0.6 cm3(ml)以上を排出することが求められています。また、グリースニップル内部の圧力が、プッシュ式は3 MPa、レバー式は6 MPaの場合でも、0.5 MPa時の80%以上の排出量が必要です。排出口を塞いで操作した際に生じる圧力は、プッシュ式で6 MPa以上、レバー式（チャック式注油口金を使用）で20 MPa以上が必要です。これは、グリースガンのプランジャーとグリースニップルに取り付けられた逆止弁（鋼球をバネで押し付ける仕組み）のバネ圧に打ち勝つために必要な性能であり、グリースの排出量を一定に保つために規定されています。

使用方法

グリースガンにグリースを充填する方法は、油筒と本体を分離し、油筒の先端をグリースに差し込んでハンドルを引くと、グリースが油筒内に吸い込まれます。カートリッジ式の場合は、カートリッジのキャップを外して本体に挿入します。

ストレート式のグリースガンの場合、ノズルをグリースニップルにまっすぐに装着し、ハンドルを押すことでグリースが注入されます。正しく装着されていないとグリースが漏れることがあるため注意が必要です。チャック式の注油口金は、グリースニップルの頭部を挟み込むため、装着ミスが少ないです。

主なメーカー

アレマイト（ALEMITE, アメリカ）
プレッソル（PRESSOL, ドイツ）
京都機械工具（KTC, 日本）
ヤマダコーポレーション（YAMADA, 日本）

脚注

参考文献
『作業工具のツカイカタ』株式会社大河出版、2002年13版発行、158-159頁
日本工業規格「グリースガン」JIS 9808-1991
Machinery Lubrication March 2002 Grease Guns - Learning the Basics

関連項目

工具
グリース
ニップル (機械)#グリースニップル
Grease fitting
M3サブマシンガン - 形状が似ていることから「グリースガン」の通称を持つ。

外部リンク

ALEMITE社ホームページ
* PRESSOL社ホームページ

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