グリーゼ近傍恒星カタログ

グリーゼ近傍恒星カタログ

グリーゼ近傍恒星カタログ（Gliese Catalogue of Nearby Stars）は、太陽系から比較的近い距離にある恒星や一部の白色矮星などを網羅した天体カタログです。具体的には、地球から25パーセク（約81.54光年）以内にある天体が主に収録されており、近傍星の研究において非常に重要な情報源として世界中の天文学者に利用されています。

このカタログの歴史は、ドイツの天文学者ヴィルヘルム・グリーゼが1957年に最初の版を出版したことから始まりました。この初期のカタログには、地球から20パーセク（約65光年）以内にある約1,000個の恒星が、天球上の位置を示す赤経順にリストアップされていました。当初、これらの恒星には「GL NNN」（NNNは1から915の番号）という符号が付与されていましたが、現在では「Gl NNN」（小文字のl）または「GJ NNN」という表記が一般的です。「GJ」という符号は、後に拡張された「グリーゼ・ヤーライスカタログ」に由来し、それ以前の版や補遺で発見された星にも遡及的に適用されています。

カタログはその後も改訂と拡張が重ねられました。

1969年: グリーゼ自身が新たな版を出版し、収録範囲を22パーセクまで広げました。この改訂では収録星数が1,529個に増加し、新たに追加された恒星には「Gl NNN.N」という枝番付きの符号（例：Gl 4.1, Gl 4.2）が付与され、赤経順を維持するために既存の番号の間に挿入されました。
1970年: リチャード・ウーリーらが参加し、収録範囲をさらに25パーセクまで拡大した補遺が公開されました。この補遺で追加された星には「Wo 9NNN」（9001から9850）という符号が付けられましたが、1969年の追加分とは重複するものが多くありました（例：Gl 4.1とWo 9001は同じ天体です）。

カタログが大きく刷新されたのは1979年です。グリーゼはハルトムート・ヤーライスとともに、現在の「グリーゼ・ヤーライスカタログ」（通称GJカタログ）として知られる第2版を出版しました。この版には二つの主要なリストが含まれており、確定した近傍恒星には「GJ 1NNN」（1000から1294）、近傍にある可能性が示唆される恒星には「GJ 2NNN」（2001から2159）という符号がそれぞれ赤経順に割り当てられました。このGJカタログ以降、それ以前の版や補遺に掲載された全ての天体にも、このGJ符号が広く使われるようになりました。

1991年には、グリーゼとヤーライスが共同で「Third Catalogue of Nearby Stars（CNS3）」という第3版を予稿の形で発表しました。この版は3,803個もの恒星情報を含み、多くの星には既にGJ番号がありましたが、新たにリストアップされた1,388個の星には番号が必要となったため、非公式ながら「GJ 3NNN」（3001から4388）という番号が付与され、現在もこれらの番号が利用されています（例：GJ 3021）。

カタログの最新の情報は、1998年にヤーライスによってオンライン版として公開され、ルプレヒト・カール大学ハイデルベルクの天文学計算研究所（ARICNS）を通じて入手可能です。さらに、2010年には可能な範囲で二つのマイクロ波帯の全天サーベイ（2MASS）のデータと統合・調和を図った更新版も出版されています。

グリーゼ581やグリーゼ710のように、一部の恒星は現在でもこのカタログの番号によって広く知られています。これらの近傍星は、地球からの物理的な近さから、太陽系外惑星の探査や恒星の物理的性質の研究など、様々な天文学的研究の重要なターゲットとなっています。このカタログは、太陽系近傍の宇宙空間を理解する上で欠かせない基礎データを提供し続けています。

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