グリーンチーズ (ミサイル)

グリーンチーズ（Green Cheese）は、1950年代半ばにイギリスで計画された、核弾頭を搭載するレーダー誘導式の対艦戦術ミサイル開発プロジェクトです。

この計画が発足した背景には、ソビエト連邦が新たに配備したスヴェルドロフ級巡洋艦に対し、イギリス海軍が大きな懸念を抱いたことが挙げられます。当時のイギリス海軍が保有していた主要な対艦兵器の一つに、無誘導式のレッドエンジェルミサイルがありましたが、これは目標に肉薄して攻撃する必要がある旧式のものでした。これに代わる、より長射程で精度の高い誘導ミサイルが求められていたのです。グリーンチーズは、このような要求を満たすべく、目標への接近を必要としない長距離からの攻撃能力と誘導システムを備えたミサイルとして構想されました。

開発はフェアリー・アビエーション社が担当し、当初は同社の社内プロジェクト名としてFairey Project 7と呼ばれていました。このミサイルは、イギリス海軍の艦上哨戒機であるフェアリー ガネットへの搭載が想定されていました。しかし、計画が進むにつれて、ミサイルの重量が約1720 kg（3,800ポンド）にも達することが明らかになり、これが大きな課題となりました。ガネットにこの重量のミサイルを搭載して運用することは極めて困難であり、実現のためにはガネットの機体構造や兵装システムを大幅に改造する必要が生じました。特に、ミサイルのレーダー探知装置を発射前に機外に露出させるための複雑な改修が必要とされました。

ガネットへの搭載の困難さが浮上する一方で、ミサイル計画自体は継続されました。その理由の一つに、開発が進められていたブラックバーン バッカニア攻撃機が搭載に適した設計、特に回転式の爆弾倉を備えていたことが挙げられます。バッカニアの設計は、グリーンチーズのような大型ミサイルの搭載において、ガネットよりもはるかに理想的であると見なされました。

しかしながら、この野心的なミサイル計画は、最終的に財政的な理由から打ち切られることになります。1956年、開発費用の大幅な超過が問題となり、計画は中止が決定されました。この中止の時点で、ミサイル開発はある段階まで進行しており、イギリスの軍事科学者ロバート・コックバーン博士にちなんで「コックバーン・チーズ」（Cockburn Cheese）と呼ばれる状態に達していました。グリーンチーズ計画の中止後、その概念は後継プロジェクトである「グリーンフラッシュ計画」に引き継がれましたが、この計画もまた同様に中止に至りました。対艦戦術核ミサイルという概念自体は、後にWE.177A核爆弾の対艦攻撃能力として部分的に引き継がれていくことになります。

このように、グリーンチーズ計画は、冷戦期におけるイギリスの対艦兵器開発の試みの一つであり、技術的な課題や予算の問題に直面し、実現に至らなかったプロジェクトとして歴史に名を残しています。

もう一度検索