クルガン

クルガン：ユーラシアステップの青銅器時代墳墓

ユーラシア大陸の中緯度ステップ地帯には、青銅器時代に築かれた独特の墳墓が数多く存在します。それがクルガン（ロシア語: кургáн, 英語: kurgan）です。クルガンは、土や石を積み上げて造られたマウンド状の墳丘を持つ墓で、日本の古墳と類似した構造を持っています。トルコ語起源のスラヴ語である「クルガン」という言葉は、この墳墓の形状を表す言葉として定着しました。

クルガンの分布と構造

クルガンは、青銅器時代の遊牧民社会において、アルタイ地方からコーカサス、さらにはルーマニアにまで広く分布しています。その分布域は、まさに青銅器時代のステップ文化圏の広がりを示しています。クルガンの規模や構造は様々ですが、内部には玄室と呼ばれる葬室を持つ複雑な構造のものも存在します。

これらの玄室には、被葬者が埋葬されており、支配者階級の墓などでは、数多くの副葬品や捧げ物が一緒に納められています。驚くべきことに、馬や戦車などの動物までもが副葬品として発見される例があり、当時の社会における馬の重要性や、権力者の地位の高さを物語っています。

主要なクルガン発掘例

シベリアからヨーロッパ東部にかけて、無数のクルガンが発見されています。その中から、特に有名な発掘例をいくつか紹介します。

クチュルク4号墳 (ロシア、サマーラ付近): 紀元前24世紀頃のクルガンで、男性の遺体と共に、独特の銅板が発見されました。この銅板は、インドの神インドラの稲妻に例えられるなど、その形状や意味について様々な解釈がなされています。
アレクサンドロヴォ・クルガン (ロシア): 紀元前4世紀頃のトラキア人の墳墓です。
フィリポフカ古墳群 (ロシア、オレンブルク西方): 紀元前4世紀のサルマタイ文化のクルガン群で、金箔を貼った鹿型木製品など、多くの黄金製品が出土しました。
コストロムスカヤ・クルガン (南ロシア、クバン川流域): 紀元前7～6世紀頃のクルガンで、馬の殉葬や、金銀、宝石などの豪華な副葬品が発見されています。ピラミッド状の屋根構造を持つ墓室も確認されており、高度な建築技術を示唆しています。
ノボベリヒコフスカヤ・クルガン (南ロシア、クラスノダール地方): 紀元前2000年頃のもので、複数の人物が抱き合って葬られているなど、独特な埋葬様式が見られました。
リャザノフカ・クルガン (ウクライナ、キエフ南方): 紀元前3世紀頃のスキタイ族長の墓で、暖炉の模造品など、農耕文化の影響が垣間見える遺物が出土しました。
トルスタヤ・モギーラ (ウクライナ南部): 紀元前4世紀のスキタイ貴族の墓で、黄金の三日月形胸飾りが有名です。胸飾りには、グリフォンや動物、人物などの精緻な彫刻が施されています。
イッシク・クルガン (カザフスタン南部): 女性の遺体と共に、4000点以上の黄金製品が出土したクルガンです。
* ベレル古墳群 (カザフスタン): パジリク文化のクルガンで、殉葬された馬や、完全な形の鞍などが発見されました。

クルガン仮説

クルガン仮説とは、クルガンを築いた人々が、インド・ヨーロッパ祖語を話す人々であったとする仮説です。この仮説は、クルガンの分布域とインド・ヨーロッパ語族の拡散との関連性を指摘したものです。現在も研究が進められており、クルガンとインド・ヨーロッパ語族の関連性を解明する上で重要な課題となっています。

まとめ

クルガンは、青銅器時代のステップ文化を理解する上で、非常に重要な遺跡です。数々の発掘調査により、当時の社会構造、埋葬儀礼、美術工芸など、多様な側面が明らかになりつつあります。今後の研究によって、さらに多くのことが解明されることが期待されます。

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