グンドゥラ・ヤノヴィッツ

グンドゥラ・ヤノヴィッツ

グンドゥラ・ヤノヴィッツ（Gundula Janowitz、1937年8月2日 - ）は、ドイツ・ベルリンに生まれ、主にオーストリアを拠点に活動した20世紀後半を代表するリリック・ソプラノ歌手です。オペラ、オラトリオ、コンサートなど、幅広い分野でその清澄な歌声と確かなテクニックを発揮しました。

経歴

オーストリアのグラーツ音楽院で声楽を学び、早くからその非凡な才能を認められました。1950年代末にはプロフェッショナルとしてのキャリアを開始し、瞬く間に頭角を現します。特に、1960年には巨匠ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮によるハイドンのオラトリオ『天地創造』で共演し、国際的な注目を集めました。

1959年、再びカラヤンの強い推薦により、ウィーン国立歌劇場でのオペラ・デビューを果たします。演じたのはモーツァルトのオペラ『フィガロの結婚』のバルバリーナ役でした。この成功を機に、1962年には同歌劇場と専属契約を結び、ウィーンを主要な活動拠点の一つとしました。

1960年代から1970年代にかけては、ヤノヴィッツの絶頂期と言えるでしょう。彼女は世界の主要なオペラハウスやコンサートホールで活躍し、国際的な名声を確立しました。この時期、ヘルベルト・フォン・カラヤン、オットー・クレンペラー、オイゲン・ヨッフム、レナード・バーンスタイン、ラファエル・クーベリック、カール・ベーム、ゲオルク・ショルティ、カルロス・クライバーといった、当時の音楽界を牽引する最も重要な指揮者たちと数多くの共演を果たしました。

彼女のレパートリーは非常に広範に及びます。バッハの宗教曲（『マタイ受難曲』や『ロ短調ミサ』など）から始まり、ハイドンやモーツァルトといった古典派、ベートーヴェン、そしてワーグナーやリヒャルト・シュトラウスの後期ロマン派に至るまで、多岐にわたる作品を歌いこなしました。特に、モーツァルトやR.シュトラウスのオペラにおける主要な役柄、ハイドンのオラトリオ、ブラームスの『ドイツ・レクイエム』など、数多くの名録音を残しており、そのディスコグラフィーは膨大です。

1970年代は、戦後第一世代の著名ソプラノたちが引退を迎える一方、次世代を担う歌手が登場しつつある過渡期でした。この時期、ドイツ語圏のオペラ界では優秀なソプラノ歌手が比較的不足していましたが、ヤノヴィッツは中心的な存在として活躍し、この時代のドイツ・オペラ界を支える上で非常に重要な役割を果たしました。

その他の活動と栄誉

オペラやオラトリオの他にも、彼女は歌曲リサイタルにも熱心に取り組みました。ザルツブルク音楽祭をはじめとする世界有数の音楽祭にも定期的に出演し、聴衆を魅了しました。

その功績は高く評価され、1978年には、オーストリアのシュタイアーマルク州が作曲家ヨーゼフ・マルクスの名を冠して贈るヨーゼフ・マルクス音楽賞を受賞しています。

主要な舞台と引退

ヤノヴィッツのキャリアにおける特筆すべき舞台の一つとして、1973年にウィーン国立歌劇場で上演されたモーツァルト『フィガロの結婚』の新しいプロダクションでの伯爵夫人役が挙げられます。ゲオルク・ショルティ指揮、ジョルジョ・ストレーレル演出という最高の布陣で実現したこの舞台で、彼女の伯爵夫人は観客や評論家から絶賛され、伝説的な上演として記憶されています。

彼女が最後に主役を演じたのは、1990年にウィーン国立歌劇場で上演されたクリストフ・ヴィリバルト・グルックの歌劇『アウリスのイフィゲニア』のタイトルロールでした。同年、ヤノヴィッツは公式にステージから引退しました。

引退後は、後進の指導にも情熱を注ぎ、声楽教師として活動しました。また、一時的にオーストリアのグラーツにおいてオペラ監督を務めた経験も持ちます。

評価

グンドゥラ・ヤノヴィッツは、その透き通るようにクリアで輝かしい声、正確な声楽テクニック、そして作品の本質を捉える深い音楽性によって、世界中のファンや批評家から愛されました。特にモーツァルトやリヒャルト・シュトラウス作品における彼女の解釈は、今なお規範の一つとされています。20世紀後半のリリック・ソプラノとして、彼女が残した膨大な録音と舞台での輝かしい業績は、今後も長く称えられていくことでしょう。

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