グーギー建築

グーギー建築：未来への憧憬と消えゆく遺産

グーギー建築は、1940年代後半から1970年代前半にかけてアメリカ、特に南カリフォルニアで流行した建築様式です。ジェット機や宇宙開発、原子力といった未来志向の技術革新と、高度経済成長による自動車文化の隆盛がその背景にあります。ストリームライン・モダンを起源とし、カフェやガソリンスタンド、モーテルなどで多く見られました。

特徴的なデザイン

グーギー建築は、幾何学的なデザインと流線型フォルムを大胆に組み合わせた独特の様式美を持っています。上向きの屋根、曲線と直線の織りなす幾何学模様、そしてガラスや鋼材、ネオンサインをふんだんに使用した華やかな外観が特徴です。デザインモチーフには、ブーメランや空飛ぶ円盤、原子構造図、放物線など、宇宙時代への憧憬を反映したものが多く見られます。また、変形した平行四辺形やパレットのような自由な造形も用いられ、未来的なイメージを強調しています。これらのデザインは、当時のアメリカ社会が宇宙開発や原子力技術に強い関心を抱き、未来的なデザインへの商業的な需要が高まっていたことを示しています。

語源と命名

「グーギー」という名称は、ハリウッドにあったグーギーズ・コーヒー・ショップに由来します。このカフェは建築家ジョン・ロートナーが設計し、オーナーの妻リリアン・K・バートンの愛称が名前の由来となっています。1952年、建築写真家と『House and Home』誌編集者による偶然の出会いから、このカフェが建築様式の代名詞として「グーギー建築」という名称が定着しました。

歴史的背景と発展

グーギー建築のルーツは、1930年代のストリームライン・モダンにあります。自動車の普及に伴い、都市郊外にドライブインレストランやガソリンスタンドなどが急増し、顧客の目を引くデザインが求められるようになりました。ストリームライン・モダンが持つ流線型のデザインは、自動車や航空機といった新しいテクノロジーと、それによって加速する社会のモビリティを象徴するものでした。

1950年代に入ると、アメリカの経済的繁栄がグーギー建築の隆盛をさらに後押ししました。原子力や宇宙開発への関心の高まりは、未来的なデザインへの需要を高め、グーギー建築はこれらの要素を積極的に取り入れました。派手なネオンサインや大胆な幾何学模様は、当時のアメリカ社会の楽観的なムードと未来への期待を反映しています。

ウェイン・マクアリスターやジョン・ロートナー、ダグラス・オノルドといった建築家たちが、グーギー建築の発展に大きく貢献しました。彼らは、道路からでも容易に識別できる、印象的なデザインを追求しました。

衰退と保存運動

1960年代半ばになると、グーギー建築の人気は衰え始めました。アポロ11号の月面着陸や、反核運動の高まりといった社会情勢の変化は、未来への楽観的な視点を変化させ、派手なデザインへの反発も生まれてきました。1970年代には、よりシンプルで環境に溶け込むデザインが主流となり、グーギー建築は過去の様式として忘れ去られていきました。

しかし、1980年代以降、グーギー建築が見直される動きが始まりました。アラン・ヘスによる『Googie』の出版や、ロサンゼルス・コンサーヴァンシー現代委員会などの保存運動によって、グーギー建築が1950年代のアメリカ文化を象徴する貴重な遺産であることが再認識され、いくつかの建造物が保存されるようになりました。ニュージャージー州ワイルドウッドでは、「ドゥー・ワップ保全協会」が積極的に保存活動を行い、新たなグーギー建築の建設にも取り組んでいます。

グーギー建築の遺産

グーギー建築は、もはや主流の建築様式ではありませんが、1950年代のアメリカの活気に満ちた文化や、未来への期待感を鮮やかに反映した、重要な歴史的遺産です。その斬新で独創的なデザインは、現代においても私たちに多くのインスピレーションを与え続けています。

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