ケッテンクラート

ケッテンクラート：第二次世界大戦のユニークな半装軌車

ケッテンクラート(Kettenkrad)は、第二次世界大戦中にドイツで使用された小型の半装軌車です。その特異な形状と性能から、多くのミリタリーファンを魅了し続けています。本稿では、ケッテンクラートの開発から戦後、そしてフィクション作品への登場までを詳細に解説します。

開発と生産

ケッテンクラートの起源は、NSU社が1938年に開発に着手した民間用小型トラクターKfz.620に遡ります。当初は森林作業向けでしたが、1940年にドイツ国防軍がその潜在能力に着目し、軍用車両として採用することとなりました。エンジン出力の向上や構造強化といった改良を経て、1941年6月21日にはSd.Kfz.2の制式番号が与えられました。

1941年から1944年にかけて、NSU社とストーベル社によって8345輌が生産され、戦後にはさらに550輌が再生産されました。制式名称は『クライネス・ケッテンクラフトラート』(Kleines Kettenkraftrad)で、直訳すると「小型装軌式オートバイ」となります。 ケッテンクラートは、兵士からは「クラート」(Krad)と略されて親しまれていました。

設計と性能

ケッテンクラートは、2本の無限軌道で駆動し、1輪の前輪で操舵するという独特の構造を持っていました。エンジンは、1938年型オペル・オリンピアの1488cc水冷直列4気筒エンジンをベースに改良されたもので、36馬力を発揮しました。

変速機は前進3速、後退1速の手動変速機と2速の副変速機を組み合わせ、最高速度は設計上70km/hでしたが、騒音問題から実用速度は50km/h以下でした。燃料タンクは操縦席の左右に独立して配置され、ラジエーターはエンジンの後方に設置されていました。冷却ファンと寒冷時の過冷却防止のためのシャッターも備えていました。

重量は1250kgと重いため、操縦性を向上させるために、ステアリングポストとフロントフォークは鉛直に対し8度の小さいキャスター角で取り付けられていました。また、旋回時の抵抗を減らし、直進性を高めるため、履帯の接地面は平行四辺形となっていました。サスペンションは、トーションバー・スプリングを用いたスウィングアームとオーバーラップ式転輪の組み合わせでした。

独特の駆動方式のため、超信地旋回は不可能でした。旋回は、ブレーキドラムとステアリングシャフトをリンクさせることで、カーブ内側の履帯の速度を落とす仕組みになっていました。前輪はブレーキを持たず、泥濘地では取り外して使用されることもありました。

運用

ケッテンクラートは、当初はグライダー空挺降下による無反動砲などの牽引を目的として、降下猟兵部隊に配備されました。しかし、東部戦線の泥濘地において、従来のオートバイやサイドカーが機能不全に陥ったため、陸軍や武装SSでも広く運用されるようになりました。空軍基地では、航空機などの牽引用としても使用されていました。

派生型と戦後

ケッテンクラートを基にした派生型も存在します。例えば、電線敷設用のSd.Kfz.2/1や重電線敷設用のSd.Kfz.2/2などが挙げられます。また、爆薬運搬車「シュプリンガー」も、ケッテンクラートの部品を流用して開発されました。

戦後、NSU社は西ドイツで再建され、既存の設備と部品を用いて550輌のケッテンクラートを民需用として再生産しました。これらの車両は前輪が廃止され、全装軌車となり、レバー操作によるクレトラック式のみで操行できるよう変更されました。

フィクション作品への登場

ケッテンクラートは、その特異な形状と歴史から、多くのフィクション作品にも登場しています。『プライベート・ライアン』、『少女終末旅行』、『ストライク・ザ・ブラッド』など、様々な作品でその姿を見ることができます。

まとめ

ケッテンクラートは、第二次世界大戦におけるドイツ軍のユニークな車両として、その歴史と技術的な特徴から、現在でも多くの研究対象となっています。その特異な形状と性能、そして戦場での活躍は、今後も人々の関心を惹きつけ続けるでしょう。

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