ケツルアズキ

ケツルアズキ（毛蔓小豆）

ケツルアズキ（学名：Vigna mungo）は、マメ科ササゲ属アズキ亜属に属する、つる性の草本植物です。日本では一般的に「もやし豆」として広く認知されており、その名前を聞いたことがある方も多いでしょう。英語では「black gram」と呼ばれ、インドを中心とした地域にルーツを持つため、現地の言葉に由来する「ウラド豆（ウラッド豆）」や、種子の見た目から「黒緑豆」、流通名としての「ブラックマッペ」など、様々な別名を持っています。

この植物は、乾燥に対する強い耐性を持つのが特徴です。つける種子は、その名の通り黒色や、時には黄緑色を呈します。ケツルアズキの起源は、インドからバングラデシュ、パキスタン、ミャンマーにかけて分布していた野生種にあると考えられています。この野生種は、同じササゲ属に分類されるリョクトウ（緑豆）とも共通の祖先を持つとされており、そこから長い年月をかけて選抜・改良され、栽培植物として確立されていきました。

栽培の歴史が古いインド亜大陸では、ケツルアズキは非常に多様な形態で利用されています。収穫された種子は保存性を高めるために乾燥されることが一般的で、これをそのまま煮てカレーやスープに入れたり、煎って軽食としたり、あるいは粉に挽いてパンや菓子の材料にするなど、毎日の食卓に欠かせない食材となっています。特に、ドーサやイダーリといった南インドを代表する発酵食品の原料として重要です。また、種子が十分に熟す前の若い莢は、サヤインゲンのように野菜としても利用されることがあります。

一方、日本における主な利用法は、種子を発芽させた「もやし」としての消費です。スーパーマーケットなどで販売されている「豆もやし」として見かけるものの中に、このケツルアズキの種子から作られたものが多く含まれています。

近年では、ケツルアズキに含まれる機能性成分にも関心が寄せられています。特に、特定のイミノシュガー類、例えば2R,5R-ビス（ジヒドロキシメチル）-3R,4R-ジヒドロキシピロリジン（DMDP）などを含むマメ科植物には、食後の急激な血糖値上昇を抑える効果が期待できることが研究で示されています。これは、食事から摂取した糖質の分解に関わる消化酵素であるα-グルコシダーゼの働きを阻害することによる作用と考えられています。

いくつかのマメ科植物について、このα-グルコシダーゼ阻害活性を比較した研究結果では、アズキ、インゲンマメ、ケツルアズキ（別名コクリョクトウ）、リョクトウ、黒ダイズの順に高い活性が確認されました。このことから、ケツルアズキが比較的強い血糖値抑制効果を示唆する成分を含んでいることがわかります。対照的に、エンドウや一般的なダイズでは、同様の活性はほとんど見られなかったと報告されています。

このように、ケツルアズキは古くから人々の食料として重要な役割を果たしてきただけでなく、現代においては健康機能の面からも注目される有望な植物と言えるでしょう。その乾燥に強い性質、多様な食利用法、そして潜在的な健康効果は、今後の食料生産や機能性食品の開発においても重要な資源となる可能性があります。

もう一度検索