ケネス・ベインブリッジ

ケネス・トンプキンス・ベインブリッジ：核物理学とマンハッタン計画を彩った実験物理学者

ケネス・トンプキンス・ベインブリッジ (1904年-1996年) は、アメリカ合衆国を代表する実験物理学者の一人です。彼の名は、第二次世界大戦中に実施された最初の核実験、トリニティ実験の指揮者として広く知られていますが、その業績は、核物理学分野における多大な貢献にまで及びます。

[ニューヨーク]]州クーパーズタウンで生まれ、ニューヨーク市で育ったベインブリッジは、少年時代から無線通信実験に没頭しました。マサチューセッツ工科大学] で電気工学の学士号と修士号を取得後、[[光電管に関する特許を取得しています。MIT在学中には物理学への関心を深め、プリンストン大学に進学。当時まだ学問として確立していなかった核物理学の研究に没頭します。

プリンストン大学では、当時未発見だった元素87（後にフランシウムと命名）の探索に挑み、質量分析計の設計を手がけました。1929年に博士号を取得すると、ペンシルバニア州にあるバートル研究財団に移り、精密な質量分析計を開発。この質量分析計を用いて同位体の質量差を精密に測定し、アインシュタインの質量とエネルギーの等価性を定量的に確認するという成果を挙げました。

その後、グッゲンハイム奨励金を得てケンブリッジ大学キャベンディッシュ研究所に留学。アーネスト・ラザフォードやジョン・コッククロフトらと交流し、核連鎖反応の概念に触れました。ハーバード大学物理学科に移籍後は、サイクロトロンの開発・製作にも着手し、そのサイクロトロンは後にマンハッタン計画へと接収されています。

ベインブリッジは、同位体分離方法の研究にも携わり、その成果をアメリカ政府に報告しましたが、当時既に極秘裏に進められていた原子爆弾開発計画の存在を知ることに。1940年には、レーダー開発プロジェクトに参加し、イギリスの原子爆弾開発計画であるMAUD委員会の報告書をアメリカ政府に伝達しました。この報告書は、アメリカの原子爆弾開発計画、マンハッタン計画の発足に直接的な影響を与えたと言われています。

1943年、ベインブリッジはマンハッタン計画の中枢であるロスアラモス研究所に移り、トリニティ実験の責任者として、世界初の核実験を指揮します。ニューメキシコ州ホルナダ・デル・ムエルトの砂漠に設置された30メートル鉄塔の上にプルトニウム型原子爆弾を設置し、実験を成功させました。実験成功の直後、彼はオッペンハイマーに「Now we are all sons of bitches（我々はみなクソ野郎だ）」という言葉を残しました。この言葉は、核兵器開発の成功と同時に、その恐るべき破壊力と人類への責任を痛感した彼の複雑な心境を表していると言えるでしょう。

戦後、ハーバード大学に戻ったベインブリッジは、新たなシンクロサイクロトロンの建設を主導しました。このサイクロトロンは、多くの実験に使用された後、陽子線治療にも利用されています。ハーバード大学物理学科長を務め、多くの大学院生を指導し、実験核物理学分野の発展に貢献しました。

晩年まで、実験物理学者としての厳密さと慎重さを持ち続け、実験計画の綿密な設計と記録には定評がありました。また、赤狩りの時代には、告発された同僚を擁護するなど、正義感の強さも見せた人物でした。1996年、マサチューセッツ州レキシントンで91歳で生涯を終えました。彼の功績は、核物理学の歴史に大きな足跡を残すものと言えるでしょう。

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