ケビン・カーター

ケビン・カーター（1960年9月13日 - 1994年7月27日）は、南アフリカ共和国出身の報道写真家です。彼は、1994年に「ハゲワシと少女」という一枚の写真でピューリッツァー賞を受賞しましたが、その直後に自ら命を絶ちました。

生涯

カーターは、ヨハネスブルグの白人居住区で、イギリスからの移民である中流家庭に生まれました。幼少期からアパルトヘイト政策の矛盾を目にし、両親との間に確執を抱えながら育ちました。薬剤師を目指すも挫折、南アフリカ防衛軍に入隊しますが、黒人ウエイターを擁護したことで同僚から暴行を受け、軍を離れることになります。その後、ラジオのディスクジョッキーにも挑戦しますが、これも失敗に終わります。鬱状態となり自殺未遂を起こすなど、精神的に不安定な時期を過ごしました。

1983年、軍の施設前での爆破事件に遭遇したことをきっかけに、歴史を記録するフォトジャーナリストを目指すようになります。写真用品店で働きながら、週末は新聞社のスポーツカメラマンとして活動を始めました。その後、いくつかの新聞社で働くようになり、反アパルトヘイト運動や民族闘争を報道しました。この頃、グレッグ・マリノビッチ、ケン・オーステルブルーク、ジョアン・シルバと共に「バンバン・クラブ」と呼ばれるグループを結成し、危険な現場での取材活動を行うようになりました。彼らは、そのストレスからマリファナなどの薬物に依存するようになり、カーター自身も薬物依存に苦しみました。

1993年、カーターはスーダンに渡り、飢餓に苦しむ人々の姿を撮影しました。そこで撮影されたのが、後にピューリッツァー賞を受賞する「ハゲワシと少女」です。この写真はニューヨーク・タイムズに掲載され、世界中で大きな反響を呼びました。しかし、同時に「なぜ少女を助けなかったのか」という批判も多く寄せられ、カーターは報道の倫理という問題に直面することになりました。受賞の喜びもつかの間、バンバン・クラブの仲間が取材中に殉職したり、自身も取材の失敗が続いたりと、精神的に追い詰められていきました。そして、1994年7月28日、彼は自ら排気ガス自殺を遂げました。

ハゲワシと少女

「ハゲワシと少女」は、スーダンの飢餓を象徴する一枚として広く知られています。飢餓で弱りきった少女が地面にうずくまり、その背後にはハゲワシが待ち構えているという衝撃的な構図は、人々の心を強く揺さぶりました。この写真は、報道写真の持つ力と、その倫理的なジレンマを浮き彫りにしました。

カーターは、少女を撮影した後にハゲワシを追い払ったとされていますが、その行動に対する批判は止みませんでした。この写真は、「報道か人命か」というメディアの姿勢を問う議論を巻き起こし、今日でも報道倫理の重要な事例として語り継がれています。また、この写真が撮影された背景には、スーダン内戦と干ばつによる深刻な飢餓がありました。カーターは、この写真を通して、人道的な危機を世界に訴えようとしたのかもしれません。

映画

カーターの生涯と作品は、いくつかのドキュメンタリー映画や劇映画で描かれています。ドキュメンタリー映画「The Death of Kevin Carter: Casualty of the Bang Bang Club」（2004年）や劇映画「バンバン・クラブ -真実の戦場-」（2010年）では、彼の苦悩や葛藤が描かれています。

ケビン・カーターは、その短い生涯の中で、数々の衝撃的な写真を世に送り出し、報道写真の世界に大きな足跡を残しました。しかし、彼自身は、その作品がもたらす賞賛と批判の狭間で深く苦しみ、悲劇的な結末を迎えたのです。彼の物語は、報道写真の持つ力と責任、そしてジャーナリズムの倫理について、私たちに問いかけ続けています。

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