ケプラー138d

ケプラー138d

ケプラー138d（Kepler-138d）は、地球からおよそ219光年離れた、こと座の方向にある赤色矮星ケプラー138を周回する太陽系外惑星の一つです。KOI-314 cという名称でも知られています。この惑星は、その大きさの割には密度が著しく低いという特徴から、生命の存在可能性とは別に、水の惑星、すなわち海洋惑星である可能性が濃厚な天体として、特に惑星科学者の間で大きな関心を集めています。

発見と命名の経緯

ケプラー138dは、2009年に運用が始まったケプラー宇宙望遠鏡による観測データの中から、2014年に発見されました。ケプラー望遠鏡は、惑星が恒星の手前を横切る際に生じる恒星のわずかな減光（トランジット）を捉えることで、惑星の存在を探査する「トランジット法」を用いています。この観測で惑星候補を示す信号が検出された恒星にはKOI (Kepler object of interest) の名称が与えられ、惑星候補にはKOI名に続いて発見順に番号が付与されます。ケプラー138の主星はKOI-314と名付けられ、当初KOI-314.01、KOI-314.02という二つの惑星候補が確認されました。

惑星候補が確定すると、主星のKOI名に小文字アルファベットb, c, ...を付けるのが通例となり、発見者グループはKOI-314.01をKOI-314 b、KOI-314.02をKOI-314 cと改称しました。その後存在が示唆された第三の候補KOI-314.03については、発見者グループは確定を見送りましたが、後にケプラーチームがこれを惑星と確定させました。この時点で、主星には「ケプラー138 (Kepler-138)」という正式名称が付与されます。確定名称における惑星の命名もアルファベット順ですが、興味深いことにケプラーチームは、最も内側を公転するKOI-314.03を「ケプラー138b」、真ん中のKOI-314.01 (KOI-314 b) を「ケプラー138c」、そして最も外側のKOI-314.02 (KOI-314 c) を「ケプラー138d」と、発見者グループとは異なる順序で命名しました。これにより、ケプラー138dは、発見者グループのKOI-314 cという名称と、ケプラーチームのケプラー138dという名称を持つことになりました。

特徴と組成の変化する理解

ケプラー138dは、主星ケプラー138から0.1288天文単位（約1930万km）の軌道を約23日かけて一周しています。ケプラー138系にはb, c, dの3つの惑星が存在し、bとdが9:4、cとdが5:3の軌道共鳴に近い状態にある可能性が指摘されています。

2014年の発見当初、ケプラー138dは地球の約1.61倍の半径に対し質量が約1.01倍と報告されました。これにより算出された密度は約1.31 g/cm³ という低い値となり、地球のような岩石惑星ではなく、ガス惑星に近い組成を持つ可能性が示唆されました。この大きさでガス惑星であることは従来の惑星形成理論に疑問を投げかけるため、ケプラー138dは大きな注目を集めました。

その後もパラメーターは見直されましたが、密度が地球の半分以下であること、そして水素や水といった低質量物質や厚い揮発性物質大気層の存在が示唆される点は変わりませんでした。内側のケプラー138cは、半径は似ているものの高密度と見積もられていたため、この違いは恒星からの放射による光蒸発が原因とする仮説もありました。

しかし、2022年12月に発表された最新の研究結果は、これまでの理解を大きく塗り替えました。様々な望遠鏡による観測データを詳細に分析した結果、ケプラー138dの質量は地球の約2.1倍に改められ、算出される密度は3.6 g/cm³ と、火星よりわずかに小さい程度に落ち着きました。さらにこの研究では、ケプラー138cもケプラー138dとほぼ同じ質量、半径、密度を持つことが明らかになりました。このことから、これら二つの惑星は、水素やヘリウムより重く、岩石より軽い「揮発性物質」、とりわけ水で主に構成されている可能性が極めて高いと結論づけられました。つまり、ケプラー138dとケプラー138cは、大量の水を含む「海洋惑星」である可能性が示されたのです。その組成は、地球のような岩石惑星とは異なり、木星や土星の周りを回る氷衛星に似ています。もしケプラー138dが海洋惑星であれば、中心に岩石質の核があり、その周りを厚さ2000kmにも及ぶ巨大な水の層がマントルのように取り囲む構造と推測されます。表面温度は地球より高温と予想されるため、この水は、厚い水蒸気の大気の下、高温高圧の環境で、液体と気体の区別がつかない「超臨界流体」の状態で存在している可能性も指摘されています。ケプラー138dに関する最新の研究は、「水の惑星」というユニークな系外惑星の存在を示唆する重要な発見となりました。

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