ケプラー138

ケプラー138星系

概要

地球から約219光年離れた、こと座の方向に位置する赤色矮星ケプラー138は、その周囲に複数の太陽系外惑星を持つことで知られています。この星系は、特に水に富む組成を持つ可能性のある惑星が存在する点で、惑星科学において注目されています。

主星：ケプラー138

ケプラー138は、太陽と比較して質量と半径が約54%という、比較的大きな赤色矮星です。スペクトル分類はM1Vに該当し、その表面温度は約3726Kと、太陽（約5778K）よりもかなり低温です。金属量（ヘリウムより重い元素の割合）は太陽より約34%少なく、形成されてから少なくとも10億年以上が経過していると考えられています。見かけの等級は約13等と非常に暗く、肉眼で観測することはできません。

惑星系の発見と複雑な命名

ケプラー138系の惑星は、主にNASAのケプラー宇宙望遠鏡によるトランジット観測によって発見されました。トランジット法は、惑星が恒星の手前を横切る際に生じる恒星の明るさのわずかな変化を検出することで惑星の存在を示唆する方法です。初期の観測では複数の惑星候補が特定され、これらの候補にはKOI（Kepler object of interest）カタログ名と番号が与えられました。その後の詳細な観測と分析により、3つの惑星、ケプラー138b、ケプラー138c、ケプラー138dの存在が確認されています。この星系の惑星命名には、異なる研究グループからの報告が独立して行われたことなどから、一部複雑な経緯がありましたが、現在ではケプラー138b, c, dといった名称が一般的に使用されています。さらに、最近の研究では、4番目の惑星候補であるケプラー138eの存在も示唆されています。

惑星たちの特徴

ケプラー138cとケプラー138d：海洋惑星の有力候補

ケプラー138星系で最も注目されているのは、惑星ケプラー138cとケプラー138dです。これらの惑星は、ケプラー宇宙望遠鏡、ハッブル宇宙望遠鏡、スピッツァー宇宙望遠鏡による詳細な観測データと、主星の視線速度観測データの分析によって、その性質が詳しく調べられました。最新の研究によれば、ケプラー138cとケプラー138dは共に、地球の約1.5倍の半径と約2倍の質量を持ち、体積は地球の約3倍に相当すると推定されています。

特筆すべきはその密度で、約3.6 g/cm3という値が算出されています。これは、地球や金星のような岩石や金属が主体の地球型惑星（密度5 g/cm3以上）と比較して明らかに低く、質量の大半が岩石よりも軽い揮発性物質で構成されている可能性を示唆しています。この揮発性物質として最も有力視されているのが「水」です。もしこれらの惑星が大量の水を含んでいるとすれば、質量の約11%、体積の約51%が水であるというシナリオも考えられます。この場合、惑星の内部には深さ2000kmにも及ぶ、液体あるいは超臨界流体の状態にある水の層（海洋マントル）が存在し、表面は大気に覆われた「海洋惑星」である可能性が非常に高まります。このような組成は、地球型惑星とも、木星や土星のようなガス惑星とも異なり、太陽系の氷衛星、例えばエウロパやエンケラドゥスに近い特徴を持つと言えます。

かつてケプラー138dは、初期のパラメータ推定から木星のようなガス惑星である可能性が指摘され、その小さなサイズから惑星形成論に一石を投じる存在として注目されました。しかし、最新の精密な観測によってその姿がより明確になり、従来の惑星分類には当てはまらない、新たなタイプの惑星としての側面が明らかになっています。

ケプラー138b：最も内側の惑星

ケプラー138bは、この星系において主星に最も近い軌道を公転していることが分かっています。この惑星の質量は、火星と金星の中間程度と推定されています。他の惑星とは異なり、ケプラー138bは主星の手前を通過する（トランジットを起こす）可能性が低いため、その正確なサイズはまだ詳しく分かっていません。現時点では、地球と同様の岩石質で構成されていると仮定されています。

ケプラー138e：ハビタブルゾーンの惑星候補

最近の研究でその存在が示唆されたケプラー138eは、ケプラー138dよりもさらに外側を公転しているとされる惑星候補です。質量はケプラー138bと同様に火星と金星の中間程度と推測されています。この惑星候補の軌道は、主星ケプラー138のハビタブルゾーン（液体の水が表面に存在しうる範囲）の比較的内縁付近に位置している点が重要です。もしこの惑星のアルベド（光の反射率）を地球と同じ0.3と仮定すると、表面の平衡温度は約292K（摂氏約19度）となり、液体の水が存在しうる環境となりえます。ケプラー138bと同様にトランジットを起こさない可能性が高いため、サイズは不明ですが、ケプラー138bよりは大きく、ケプラー138cやdよりは小さい可能性が指摘されており、地球と同様の岩石質組成が仮定されています。

意義

ケプラー138星系の詳細な研究は、太陽系外に多様な組成を持つ惑星が普遍的に存在すること、特に大量の水を含む海洋惑星が比較的多く存在しうる可能性を示す重要な事例を提供しています。また、ハビタブルゾーン内に位置する低質量の惑星候補ケプラー138eの存在は、生命居住可能性の探査においても新たな視点をもたらします。今後のさらなる観測、特にジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などを用いた大気成分の詳細な分析によって、これらの惑星の謎がさらに解き明かされることが期待されています。

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