ケプラー1625b I

概要

ケプラー1625b Iは、地球からおよそ8000光年離れたはくちょう座の方向に位置する天体です。この天体は、巨大ガス惑星である太陽系外惑星ケプラー1625bの周囲を公転している可能性が示唆されており、もしその存在が確定すれば、人類が初めて発見した太陽系外衛星（エキソムーン）となります。その最初の兆候は、恒星の手前を惑星が通過する際に生じる光の減光を捉えるトランジット法を用いた観測によって、2017年に報告されました。

発見と観測

2017年にケプラー宇宙望遠鏡のデータからケプラー1625b Iの存在を示唆する信号が検出されたことを受け、さらに詳細な観測を行うため、2017年10月にはハッブル宇宙望遠鏡が用いられました。これらの観測データを分析した結果は、2018年10月初旬に学術雑誌『サイエンス・アドバンシス』に論文として発表されました。この論文では、主星であるケプラー1625の光がケプラー1625bによって遮られるトランジットのタイミングにわずかな変動（トランジットタイミング変動、TTV）が見られること、およびトランジット中に惑星とは別に小さな減光が観測されたことから、海王星に匹敵する質量の衛星が存在する可能性が高いと報告されました。

存在を巡る議論

ケプラー1625b Iの存在に関する報告は、史上初の太陽系外衛星の発見として大きな注目を集めましたが、同時にその実在性には疑問も呈されました。2018年の論文発表後、独立した研究者たちによるデータの再分析が行われました。2019年2月に公表されたある再分析では、衛星の存在を示す証拠が見出され、候補としての可能性が改めて示唆されました。しかし、別の研究では、観測された信号が衛星によるものではなく、データ処理や解析方法に起因するアーティファクトである可能性が指摘されました。特に、2019年4月に発表されたハッブル宇宙望遠鏡データを用いた別の研究では、衛星の存在を示す信号は統計的に有意ではなく、実在しない可能性が高いと結論付けられました。また、観測されたトランジットタイミングの変動は、ケプラー1625b Iではなく、ケプラー1625系にまだ発見されていない別の惑星が存在することで説明できる可能性も示唆されています。このような議論が続く中、2020年8月には、ケプラー1625b Iを含む複数の太陽系外衛星候補のデータが再検証され、ケプラー1625b Iについては改めて衛星候補としての可能性が示されるなど、現在もその実在を巡る状況は確定していません。

将来的な観測、特に高性能なジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による観測は、この太陽系外衛星候補の真偽を明らかにする鍵となるものと期待されています。

推定される特性

ケプラー1625b Iは、その存在が確認されれば、極めて巨大な衛星と考えられています。主星である惑星ケプラー1625bは木星と同程度かそれ以上の質量を持つと推定されていますが、その周りを公転しているとされるケプラー1625b Iの質量は海王星と同程度、すなわち地球質量の約10倍にも及ぶと推測されています。これは主星の質量の約1.5%にあたる計算となります。また、推定される半径は地球の約4.9倍とされており、これもまた巨大なサイズです。主星ケプラー1625bからの平均的な公転距離は約300万キロメートル、公転周期は約22日と計算されています。

これほどまでに巨大なサイズと質量を持つことから、ケプラー1625b Iは岩石質ではなく、ガスを主成分とする天体である可能性が高いと考えられています。これは、太陽系内に存在する衛星とは異なる形成過程を経たことを示唆しています。また、理論上、これほど巨大な衛星自身が、さらにその周りを公転する小さな衛星、いわゆる孫衛星を持つ可能性も考えられます。もし孫衛星が存在し、その軌道が主星ケプラー1625bのハビタブルゾーン内に位置する場合、惑星ケプラー1625bの平衡温度が約-20℃であることから、孫衛星の表面に液体の水が存在できる環境、すなわち居住可能な環境を持つ可能性も指摘されています。

ケプラー1625b I