ケルズの書

ケルズの書について

『ケルズの書』は、8世紀にアイルランドで制作された聖書の手写本で、特にラテン語で書かれた装飾された福音書です。この写本は、ケルト装飾写本の中でも非常に重要な位置を占めており、特に大きさや装飾の華やかさにおいて他には類を見ない作品とされています。ケルズの書は、アイルランドの国宝であり、世界でも最も美しい本の一つとして広く知られています。

概要

この写本は、高さ33cm、幅24cmのサイズで作られており、主なクリスチャンの教義が含まれる四つの福音書が収められています。ギリシャ語が起源である聖書の内容は主にウルガタ訳から取られていますが、古いラテン語の翻訳も参照されています。ケルズの書の誕生には、イギリスおよびアイルランドのコルンバ修道院の僧たちが関与したとされ、特にアイオナ島で制作され、後にケルズで完成されたと伝えられています。

ケルズの書の特徴として、装飾が極めて豊かであることが挙げられます。装飾には、キリスト教の象徴やケルトの模様、動物や神話上の存在などが巧みに取り入れられ、ページを鮮やかに彩っています。加えて、写本の中にはインシュラー体による文字表記が使用され、その書法もまた、アイルランドの書道芸術の最高峰を代表するものとなっています。

現在、ケルズの書はダブリン大学のトリニティ・カレッジ図書館に保存されており、その4巻のうち2巻は常に一般に公開されています。この写本は1953年に再編成され、340枚の一葉から構成されています。各ページは高品質の子牛の皮で作られ、非常に劣化しにくい特徴を持っています。

歴史的背景と制作過程

ケルズの書の起源は、アイルランドやスコットランド、そしてイングランドに繋がります。6世紀後半から9世紀初頭にかけて、インシュラー様式と呼ばれる美術様式の中で、多くの写本が作成されていました。こうした写本の中で、ケルズの書は特に優れた作品の一つとされ、装飾様式や文体の豊かさにおいて他の写本と区別されます。

ケルズ修道院の成立は、アイオナ修道院から派生したものと考えられています。この修道院は、807年から814年までの間に教会が建立され、その中でケルズの書の制作が行われたと言われています。伝統的には、コルンバによってデザインされたとされるこの写本は、800年頃に完成したとも伝えられています。

ケルズの書は、長い間他の写本と同様に多くの手を経てきたため、正確な制作場所や過程に関しては数多くの理論があります。しかし、多くはアイオナ島で始まり、ケルズで完成したという説を支持しています。

中世とその後の歴史

ケルズの書は、9世紀初めに何度もヴァイキングによって襲撃を受け、その運命が厳しいものであったことが記録されています。最古の言及は『アルスター年代記』にあり、ここで「コロンキレの偉大な福音書」として知られる書物が盗難に遭った記録が残っています。これが実際にはケルズの書であったと考えられています。

12世紀にはケルズ修道院が解散し、その後はケルズの書は教区教会に受け継がれていきます。近代では、オリバー・クロムウェルの騎兵隊によってケルズの教会にあった書物がダブリンに送られ、以降はトリニティ・カレッジに保存されることとなりました。また、数世紀を経てケルズの書は世界的に有名となり、19世紀には特にその美術的価値が高く評価されるようになりました。

現代の評価

ケルズの書は、現在においてもその価値と美しさから広く知られ、アイルランドを代表する文化遺産としても位置づけられています。さまざまな印刷物やデジタルメディアを通じて、その美術的特徴や歴史を学ぶことができるようになりました。近年では、ケルズの書の複製が制作され、一般の人々がその美しさを体験する機会も増加しています。

このように、ケルズの書は単なる写本を超え、アイルランドの文化、歴史、そして芸術の象徴として存在しています。

もう一度検索