ケンタウルス座アルファ星Ab

ケンタウルス座α星Ab

概要

ケンタウルス座α星Abは、2021年2月に公表された、太陽系外惑星の候補です。この天体は、連星系であるケンタウルス座α星の主星、ケンタウルス座α星Aの周囲を公転している可能性が指摘されており、直接撮影によってその存在が捉えられました。Candidate 1、あるいは略してC1とも呼ばれることがあります。主星からおよそ1.1天文単位（地球から太陽までの距離の約1.1倍）という距離に位置し、約1地球年かけて軌道を一周すると考えられています。

推定される性質

ケンタウルス座α星Abの質量は、海王星と土星の中間にあると推測されています。このような比較的大きな質量を持つことから、この天体は岩石質の惑星である可能性は非常に低く、木星や土星のようなガス惑星、あるいは海王星のような氷惑星に近い性質を持つ可能性が高いと考えられています。ガス惑星であるため、惑星そのものが生命の居住に適しているとは考えられていません。しかし、もしこの天体の周囲に十分な質量と環境を持つ太陽系外衛星が存在するならば、その衛星上に生命が生存可能な条件が揃っている可能性は理論的には排除されません。一方で、主星ケンタウルス座α星Aのハビタブルゾーン（生命が生存しうる温度帯）内に、生命が生存しうる岩石惑星が存在する可能性については、この天体の発見によって、その可能性が限定的となった、あるいは排除されたとされています。

発見の経緯

ケンタウルス座α星Abの発見は、ブレークスルー・ウォッチ・イニシアティブ（Breakthrough Watch Initiative）による観測プロジェクトの中でなされました。このプロジェクトでは、中赤外線を用いた太陽系外惑星の直接観測のために新たに開発された観測システムが活用されました。研究チームは、主星のハビタブルゾーン付近を公転する太陽系外惑星候補を直接撮影することに成功しました。この候補天体は、複数の独立したデータセットを用いた分析によってそのシグナルが検出されました。また、長年にわたる過去の観測データとの比較から、このシグナルが単なる背景にある別の恒星である可能性は低いことが確認されました。研究チームは、この太陽系外惑星候補の発見に関する詳細を、「ネイチャー コミュニケーションズ」誌に掲載された論文「Imaging low-mass planets within the habitable zone of Alpha Centauri」で発表しました。

候補としての不確実性

ただし、この発見はあくまで「候補」の段階にとどまっています。観測に費やされた期間はわずか100時間程度と比較的短く、この限られたデータだけでは、捉えられたシグナルが真に惑星からのものであるのか、それとも観測装置によるノイズ（アーティファクト）や、黄道帯と呼ばれる惑星系の塵の円盤によるものであるのかを明確に判断するには不十分です。そのため、この天体が本当に太陽系外惑星として存在するかどうかを確定するためには、さらなる追加観測とデータの蓄積が必要とされています。

推定される物理的特性

ケンタウルス座α星Abについて、その性質を決定づける情報はまだ限られていますが、観測データに基づいたいくつかの物理的特徴が推定されています。地球から見たその軌道の傾き（軌道傾斜角）は約70度と計算されており、これはケンタウルス座α星系全体を地球から観測した際に推測される傾きと一致しています。検出に用いられたアルゴリズムは、海王星程度の質量を持つ天体を想定しており、また、視線速度法を用いた場合の検出限界は地球質量の約50倍程度であるため、この候補がそれより大幅に軽い天体である可能性は低いと考えられます。検出されたシグナルの特徴から、推定される半径は地球半径の7倍より大きくないものの、地球半径の3.3倍を下回る場合は検出が困難であったとされています。前述の通り、この大きな質量は、ケンタウルス座α星Abが岩石惑星ではなく、海王星サイズのガス/氷惑星である可能性が高いことを示唆しています。

今後の展望

ケンタウルス座α星Abが真の惑星であるのか、それとも他の現象による見かけ上のシグナルであるのかを最終的に判断するには、今後のフォローアップ観測が不可欠です。これらの追加観測によって、その軌道運動が確認され、質量や物理的特性に関するより詳しい情報が得られることが期待されています。ケンタウルス座α星系は太陽系に最も近い恒星系の一つであり、そのハビタブルゾーン内に惑星が存在するかどうかは、長年大きな関心を集めてきました。この候補の確定は、近傍の惑星系における惑星形成や居住可能性の研究に重要な一歩となるでしょう。

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