ゲオルク・アグリコラ

ゲオルク・アグリーコラ：鉱山学の父

ゲオルク・アグリーコラ(1494年-1555年)は、ドイツのルネサンス期に活躍した鉱山学者、鉱物学者、そして医者です。本名はゲオルク・バウエルですが、ラテン語名のアグリコラ(Agricola、農夫を意味するBauerのラテン語形)で広く知られています。彼の多大な貢献から、「鉱山学の父」と称されています。

アグリコラは、単なる学究にとどまらず、実践的な知識を重視しました。鉱山現場での作業員たちの経験や知恵を丁寧に収集し、それらを体系的に整理することで、鉱山学という学問分野の基礎を築き上げました。当時、錬金術が盛んだった時代において、アグリーコラは錬金術を明確に否定し、自然科学に基づいた実証的な研究を貫きました。

生涯と研究

ザクセン地方で生まれたアグリコラは、ライプツィヒ大学でギリシャ語を学び、その後はツヴィッカウでギリシャ語教師を務めました。30歳を機にイタリアへ留学し、パドヴァ、ヴェネツィア、ボローニャの各大学で医学、化学、言語学を修め、印刷技術にも関心を寄せました。

イタリア留学後、ボヘミアのヨアヒムスタールで医師として働きながら鉱山学の研究に没頭します。1530年には鉱山学に関する著書『ベルマヌス』を出版、その後ケムニッツに移り、代表作『デ・レ・メタリカ』の執筆に取り組みました。1546年にはケムニッツの市長にも就任しています。1555年、宗教改革や農民戦争が激化する中、脳卒中で亡くなりました。

デ・レ・メタリカ：鉱山学の金字塔

アグリーコラの最高傑作『デ・レ・メタリカ(De re metallica)』は全12巻からなる大著です。1533年から1550年にかけてヨアヒムスタールで執筆され、アグリーコラの死後4ヶ月にバーゼルで初版が刊行されました。日本語訳では『金属について』として知られています。

本書は、探鉱から採掘、選鉱、製錬に至るまでの鉱山技術全般を網羅しています。鉱脈の構造、地質、鉱物の性質、機械、作業方法など、豊富な図版とともに詳細に記述されています。単なる技術書にとどまらず、鉱物の分類や記述も含まれており、近代鉱物学の基礎を築いたと言えるでしょう。

各巻の内容は以下の通りです。

第1巻：学問
第2巻：鉱山師の心得、採鉱
第3巻：鉱脈、亀裂、層
第4巻：測量方法、鉱山師
第5巻：測量
第6巻：採掘道具、機械
第7巻：鉱石
第8巻：鉱石の砕き方、焙焼方法
第9巻：鉱石の融解方法
第10巻：貴金属と卑金属の分離
第11巻：金、銀、銅、鉄の分離
第12巻：塩、ミョウバン、硫黄、ガラスの製法

『デ・レ・メタリカ』は、その後の鉱山技術の発展に多大な影響を与え、現在でも鉱山学、鉱物学、冶金学の古典として高く評価されています。

アグリコラの遺産

アグリーコラの功績を称え、ドイツ鉱物学会は「ゲオルク・アグリコラ・メダル」を創設しました。このメダルは、非鉄金属の金属学や鉱山学分野における優れた業績に贈られます。また、ハーバート・フーヴァー元アメリカ大統領（自身も鉱山技師であった）とその妻ルーは、アグリコラの著作を英語に翻訳しており、当時としては最も信頼できる翻訳として知られています。アグリコラの研究は、現代社会においてもなお、その重要性を保ち続けています。

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