ゲオルク・ド・ヘヴェシー

ゲオルク・ド・ヘヴェシー：ハフニウム発見とノーベル賞受賞、そして知略に満ちた行動

ゲオルク・ド・ヘヴェシー(1885年-1966年)は、20世紀を代表する化学者の一人です。ハンガリーの貴族階級に生まれた彼は、ブダペストのエトヴェシュ・ロラーンド大学をはじめ、ベルリン大学、フライブルク大学と、ヨーロッパ屈指の教育機関で研鑽を積みました。その後、フライブルク大学やストックホルムの有機化学研究所に勤務し、研究活動に没頭しました。

彼の最も偉大な功績の一つは、1923年のハフニウムの発見です。当時、コペンハーゲン大学のニールス・ボーア研究所に在籍していたヘヴェシーは、同僚のディルク・コスターと共に、X線分析法を用いた地道な研究を続けました。この発見は、元素周期表における重要な空白を埋めるものであり、科学界に大きな衝撃を与えました。ハフニウムという元素名は、ニールス・ボーア研究所のあるコペンハーゲンのラテン語名「ハフニア」に由来しています。ヘヴェシーとコスター、異なる国籍の科学者による国際協力の成果は、科学における国際交流の重要性を示す好例といえるでしょう。

さらに、ヘヴェシーは同位体の化学反応におけるトレーサーとしての応用に関する研究でも顕著な業績を残しました。この研究は、化学反応のメカニズム解明に革命をもたらし、生物学や医学における応用も広がりました。この画期的な研究成果により、1943年にはノーベル化学賞を受賞しています。これは、彼の科学への多大なる貢献が国際的に認められた証です。

しかし、ヘヴェシーの生涯は、科学研究だけではありませんでした。第二次世界大戦中、ナチス・ドイツのデンマーク占領という厳しい状況に直面します。彼は、迫害の危機に瀕していたマックス・フォン・ラウエとジェイムス・フランクから預かっていたノーベル物理学賞の金メダルを、溶解するという大胆な行動に出ました。王水という強酸を用いてメダルを溶かし、ニールス・ボーア研究所に保管。その後、スウェーデンへ亡命しました。この行動は、ナチスの弾圧を逃れるためだけでなく、当時、金などの貴金属の国外持ち出しが違法であったため、やむを得ない苦渋の決断であったと言えるでしょう。これは、ヘヴェシーの機転と勇気、そして科学者としての倫理観を示す逸話として語り継がれています。戦後、ヘヴェシーは溶液から金を回収し、ノーベル財団に依頼してメダルを再製作しました。

ヘヴェシーは、1949年にはコプリ・メダルを受賞し、王立協会の外国人会員にも選ばれるなど、数々の栄誉に輝きました。晩年はフライブルクで過ごし、1966年に同地で逝去。彼の遺体は、故郷ブダペストのケレペシ墓地に埋葬されています。

ゲオルク・ド・ヘヴェシーの生涯は、類まれな科学的才能と、困難な時代を生き抜いた知略と勇気を併せ持った、一人の科学者の物語です。彼の業績は、現代科学の発展に多大なる影響を与え続けており、その名はこれからも科学史に刻まれ続けるでしょう。

もう一度検索