王水

王水：貴金属をも溶かす強酸

王水は、濃塩[[酸]]と濃硝[[酸]]を3:1のモル比で混合した橙赤色の液体です。その名の通り、金や白[[金]]といった通常の酸では溶解しない貴金属を溶かすことができることから、錬金術師によって名付けられました。

王水の性質

王水の酸化力は極めて強く、反応によって生成する金属化合物は、その金属の最高酸化数を示します。金や白[[金]]以外にも多くの金属を溶解しますが、タンタルやイリジウムは例外的に溶解しません。銀も、王水との反応で生成する塩化銀の膜により反応が阻害され、ほとんど溶けません。ルテニウム、ロジウム、オスミウムは反応しますが、速度は遅いです。

王水の強い腐食性から人体への危険性も高く、日本では毒物及び劇物取締法により、塩化[[水素]]濃度10％を超える製剤が劇物に指定されています。

王水の用途

王水の主な用途は、高純度金の精製に用いられる塩化金酸の製造です。また、分析化学における試料調製、貴金属塩の製造、ガラス器具の精密洗浄、電子部品や装飾品の加工くずからの貴金属回収など、多岐にわたる用途があります。

王水は成分間の分解反応によって効果がすぐに失われるため、通常は使用直前に調製されます。廃棄の際には、地域規制に従い、十分に中和した上で下水に流すことができます。ただし、溶存金属による汚染が懸念される場合は、適切な処理が必要です。

王水の化学反応

濃塩[[酸]]と濃硝[[酸]]を混合すると、以下の反応式で表されるように、塩化ニトロシル、塩素、水が生成されます。


HNO3(aq) + 3HCl(aq) → NOCl(g) + Cl2(g) + 2H2O(l)


生成直後の王水は無色ですが、すぐに橙色に変化します。これは揮発性成分の反応によるもので、これらの成分が全て揮発すると王水としての性質は失われます。塩化ニトロシルは一[[酸化窒素]]と塩素に分解し、一[[酸化窒素]]は大気中の酸素と反応して二[[酸化窒素]]になります。


2NOCl(g) → 2NO(g) + Cl2(g)
2NO(g) + O2(g) → 2NO2(g)

金の溶解

王水は、硝[[酸]]の酸化作用と塩[[酸]]による金イオンの除去という、それぞれの酸の異なる役割によって金を溶解します。

まず、[硝酸]]が微量の金を酸化して金イオン(Au3+)を生成し、塩[[酸]]が供給する塩化物イオン(Cl-)と反応して溶液中にテトラクロリド[[金][[酸]]イオンを形成します。この反応により、溶液から金イオンが除去され、さらに酸化が進むというサイクルが繰り返されます。


Au + 3HNO3 + 4HCl ⇌ [AuCl4]- + [3NO2] + [H3O]+ + 2H2O
Au + HNO3 + 4HCl ⇌ [AuCl4]- + [NO] + [H3O]+ + H2O


金を含む王水を処理して固体のテトラクロロ金酸を得るには、残った王水を煮沸し、塩[[酸]]で加熱して残留硝[[酸]]を除去します。それから、二[[酸化硫黄]]などの還元剤で金を選択的に還元できます。


2AuCl4-(aq) + 3SO2(g) + 6H2O(l) → 2Au(s) + 12H+(aq) + 3SO42-(aq) + 8Cl-(aq)

白[[金]]の溶解

白[[金]]も金と同様に溶解します。反応式は以下のように表すことができ、酸化反応は一[[酸化窒素]]または二[[酸化窒素]]を用いて記述できます。


Pt(s) + 4NO3-(aq) + 8H+(aq) → Pt4+(aq) + 4NO2(g) + 4H2O(l)
3Pt(s) + 4NO3-(aq) + 16H+(aq) → 3Pt4+(aq) + 4NO(g) + 8H2O(l)


酸化された白[[金]]イオンは塩化物イオンと反応して塩化白[[金]]酸イオンになります。


Pt4+(aq) + 6Cl-(aq) → PtCl62-(aq)


しかし、実際にはより複雑な反応が進行し、テトラクロリド[白金]酸と塩化ニトロソ白[[金]]の混合物が生成されます。白[[金]]を完全に溶解するには、濃塩[[酸]]で残留固形物を繰り返し抽出する必要があります。


2Pt(s) + 2HNO3(aq) + 8HCl(aq) → (NO)2PtCl4(s) + H2PtCl4(aq) + 4H2O(l)
(NO)2PtCl4(s) + 2HCl(aq) ⇌ H2PtCl4(aq) + 2NOCl(g)
H2PtCl4(aq) + Cl2(g) → H2PtCl6(aq)


溶解した[白金]]は、塩化鉄(II)処理で沈殿させ、塩化アンモニウムを加えることでヘキサクロリド[[白[[金]酸]]アンモニウムとして分離・精製できます。


3(NH4)2PtCl6 → 3Pt + 2N2 + 2NH4Cl + 16HCl

その他の反応

王[水]]はスズと反応して塩化スズ]を生成し、[[黄鉄鉱とは反応して窒素酸化物を生成します。


4HCl + 2HNO3 + Sn → SnCl4 + NO2 + NO + 3H2O
FeS2 + 5HNO3 + 3HCl → FeCl3 + 2H2SO4 + 5NO + 2H2O

王水の歴史

王水は、西暦800年頃のアラブの錬金術師によって発見されたとされています。16世紀には、バシリウス・ヴァレンティヌスの著作『バシリウス・ヴァレンティヌスの12の鍵』にも記述が見られます。1789年にラヴォアジェが"aqua regia"と命名しました。

第二次世界大戦中、ハンガリーの化学者ゲオルク・ド・ヘヴェシーは、ナチスドイツからノーベル賞の金メダルを守るため、王水で溶かして保管し、戦後に復元したという逸話も有名です。

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