ゲツセマネの祈り (マンテーニャ、ロンドン)

アンドレア・マンテーニャの『ゲツセマネの祈り』

アンドレア・マンテーニャが1455年から1456年にかけて制作したテンペラ画『ゲツセマネの祈り』は、キリストが最後の晩餐の後、オリーブ山のゲツセマネの園で苦悶の祈りを捧げる場面を描いた作品です。この絵画は、マンテーニャの初期の傑作として知られ、現在はロンドンのナショナル・ギャラリーに所蔵されています。

主題

この作品の主題は、『新約聖書』の「マタイによる福音書」26章などに記されている、イエス・キリストが受難を前にして行った祈りの場面です。イエスは、イスカリオテのユダの裏切りと自身の受難を予感し、深い苦悩の中で神に祈りました。弟子たちに共に祈るよう頼みますが、彼らは眠ってしまいます。イエスは「この苦杯を私から取り除いてください」と祈りつつも、最終的には神の意志を受け入れ、「御心が行われますように」と祈ります。この祈りは三度繰り返されます。

作品の詳細

マンテーニャは、聖地エルサレムを離れたゲツセマネの園で、祈るキリストの姿を描いています。キリストは、教会の祭壇のような岩の前でひざまずき、合掌して天を見上げています。その視線の先には、キリストの受難と死を象徴する十字架、柱、槍を持つケルビムが描かれています。この十字架は、祈りを捧げる祭壇を完成させる役割も担っています。

キリストと共に祈るように言われた三人の使徒、ペテロ、ヤコブ、ヨハネは、聖書の記述通りに眠りこけています。一方、キリストの運命は迫っており、エルサレムの城門は開き、イスカリオテのユダが先導する兵士たちがキリストを捕縛するために向かっています。マンテーニャは、物語の緊張感を高めるために、風景を効果的に用いています。古代彫刻や建築、岩などの描写にも彼の関心が表れています。背景のエルサレムの町は、異教的な都市として描かれており、三日月を頂いた塔はイスラム的、黄金の騎馬像や円形建築のコロッセウムは古代ローマを思わせます。

前景の赤く侵食された岩肌と遠くの円錐形の岩山との対比、豊かな褐色の土壌や植生は、マンテーニャが自然を綿密に観察していたことを示しています。いくつかの場所にはウサギが、小川には洗礼を象徴する二羽のシラサギが描かれています。また、使徒たちが眠る岩場にはイチジクの木が生えており、これはユダの裏切りを象徴している可能性があります。画面右端の木には、黒いハゲワシが描かれています。

この作品は、マンテーニャの義父ヤーコポ・ベリーニの素描の影響を受けて描かれたとされています。ヤーコポの息子ジョヴァンニ・ベッリーニも、この作品に触発され、『ゲツセマネの祈り』を描いたとされています。両作品とも、現在はナショナル・ギャラリーに所蔵されています。

来歴

この絵画は17世紀までにアルドブランディーニ家の所有となり、その後ナポレオンの叔父ジョゼフ・フェッシュ枢機卿のコレクションに加わりました。その後、ウィリアム・カニンガムと初代ノースブルック伯爵トマス・ベアリングのコレクションを経て、1894年にナショナル・ギャラリーに売却されました。

まとめ

マンテーニャの『ゲツセマネの祈り』は、宗教的な主題を扱いながらも、その緻密な描写と物語性によって、観る者を惹きつけます。キリストの苦悩、使徒たちの眠り、迫りくる運命、そして古代的な風景描写が織りなす、緊張感に満ちた作品です。

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