ゲツセマネの祈り (ラファエロ)

『ゲツセマネの祈り』

『ゲツセマネの祈り』（伊: Orazione nell'orto, 英: Agony in the Garden）は、1504年ごろにイタリアの巨匠ラファエロ・サンティによって制作された名作です。この作品は、キリスト教の聖書におけるイエス・キリストの受難の前夜、ゲツセマネの園での祈りの姿を描いています。1932年よりニューヨークのメトロポリタン美術館に所蔵されており、同美術館のコレクションの中でも特に重要な作品の一つです。

歴史的背景

本作はもともと、『コロンナの祭壇画』の裾絵の一部として構想されました。この祭壇画は、ラファエロがフランシスコ会の聖堂のために制作したもので、全体は大きな板絵の上にルネット（半円形の部分）を配置する構成となっています。裾絵には、キリストの最後の日々に関連する三つの重要な出来事が描かれており、左から『ゲツセマネの祈り』、『十字架の道行き』、そして『キリストの哀悼』の順に並んでいます。さらに、フランシスコ会の聖人である『アッシジの聖フランチェスコ』や『パドヴァの聖アントニウス』が左右に配置され、全体の構成が整えられています。

1663年に、経済的困難に直面した修道女たちはこの裾絵をスウェーデン女王クリスティーナに売却しました。その後、数年を経て祭壇画本体も手放したため、作品は様々な経緯を辿っています。

作品解説

聖書の『マタイによる福音書』や『マルコによる福音書』、『ルカによる福音書』によると、「最後の晩餐」の後、イエスは弟子たちのペテロ、ヤコブ、ヨハネを連れてオリーブ山の麓にあるゲツセマネの園へ向かいます。到着後、イエスは弟子たちに祈るよう命じ、自らは少し離れた場所で深い祈りを捧げます。彼は自分が受ける運命を知っており、神の意志に従うことを決意します。その間、弟子たちは誘惑に負けて眠ってしまいます。

この絵画では、静謐で繊細な風景の中で、イエスの姿が強く描かれており、彼の力強い祈り子からの対照に弟子たちのリラックスした姿が映し出されています。弟子たちのポーズは観察に基づいて慎重に描かれており、この対比が作品全体に深いドラマを与えています。

また、後世の画家によって加筆された部分も存在します。特に右上の小さな天使の部分は、そのバランスが不自然に感じられます。本来、右端には聖杯が含まれていたとされ、この聖杯はイエスが人類の罪を贖うために必要なものでした。初期の素描にはその構図が描かれており、後の変更は、修道女たちの意向を反映したものかもしれません。

影響と評価

『ゲツセマネの祈り』は、その宗教的テーマとラファエロの素晴らしい技術により、ルネサンス美術の重要な作品として位置付けられています。絵画は、イエス・キリストの深い内面を描き出すことによって、聖書の物語に新たな命を吹き込むことに成功しています。現在でも多くの人々に愛され、観賞されています。

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