ゲド

ゲド：アースシーを導いた大賢人

アーシュラ・K・ル＝グウィンのファンタジー小説『ゲド戦記』に登場するゲドは、アースシー世界を代表する魔法使いの一人です。その波瀾万丈な生涯は、多くの読者を魅了してきました。

ゴント島での出自と幼少期

ゲドは、アースシー世界の北海域に位置するゴント島北部の十本榛の木村で生まれました。ゴント島は辺境の地であり、住民の多くはヤギ飼いや船員として質素な生活を送っています。ゲドもまた、ヤギ飼いを家業とする家庭に生まれました。出生時に母親を亡くし、幼い頃は「ダニー」という名で呼ばれていました。父親は鍛冶屋で、何人かの兄がいたようですが、物語にはほとんど登場しません。ダニーの世話をしたのは、村のまじない女でもある伯母でした。伯母はダニーの魔術の才能を見抜き、まじないの初歩を教えます。ダニーはヤギやハイタカを呼び寄せる術を学び、その姿から村の子どもたちに「ハイタカ」というあだ名を付けられました。以後、彼は自らをハイタカと名乗るようになります。

魔法使いへの道

ある時、カルガド帝国がゴント島に侵攻します。ハイタカは霧と目眩ましの術を使い、単身で村をカルガド軍から守り抜きました。この噂を聞きつけたゴントの大魔法使い“沈黙のオジオン”ことアイハルは、ハイタカを弟子にすることを決めます。成人の儀式で、アイハルは彼に真（まこと）の名前「ゲド」を授けました。真の名前は、アースシー世界ではその名を支配する力を持つ特別なもので、むやみに他人に明かすことはありません。ゲドはオジオンのもとで修行に励みますが、名誉と力を求め、魔法の中心地であるローク島へと旅立ちます。

ローク魔法学院での挫折と成長

ローク魔法学院に入学したゲドは、その早熟な才能を発揮し、学院でも一目置かれる存在となります。しかし、彼は自尊心が強く傲慢な性格でした。出自を揶揄する級友に挑発され、死者の霊を呼び出す禁断の術を行使してしまいます。術は失敗し、ゲドは「影」を呼び出してしまうのです。当時の大賢人は、術によって生じた歪みを正すために力を使い果たし命を落とし、ゲド自身も影に襲われ重傷を負います。この時、顔に受けた傷は生涯消えることはありませんでした。この事件を境に、ゲドは自尊心を失い、物静かで思慮深い性格へと変化していきます。

影との戦いと自己との対峙

怪我から回復後、ゲドは自らが呼び出した影に怯えながらも、師であるオジオンの助言を受け、影を追う旅に出ます。旅の途中、ゲドは親友と呼べる存在を得ます。級友であり、自身の真の名前を明かしてくれたその友の助けもあり、ゲドはついに影との決着をつけることができました。影の正体は、ゲド自身の暗黒面だったのです。

大賢人としての活躍と晩年

影との戦いを終えたゲドは、その後も数々の冒険を経験します。竜と対等に話すことのできる大魔術師として、世界の平和を取り戻すため、『エレス・アクベの腕輪』をカルガド帝国の聖地から取り戻しました。その後、異例の若さでロークの大賢人に就任し、壊れかけた生者と死者の国の境を修復し、エンラッドの王子アレンをアースシーの新たな王として擁立しました。しかし、境の修復によって魔力を失ったゲドは大賢人を辞任し、竜の背に乗って故郷ゴント島へと帰ります。かつてカルガド帝国の聖地で彼を助けた巫女テナーと共に暮らし、魔術師としてではなく、ヤギ飼いとして静かに余生を送りました。

ゲドの物語は、魔法と冒険に満ちたファンタジーであると同時に、自己との葛藤や成長を描いた人間ドラマでもあります。彼の波瀾万丈な生涯は、私たちに勇気と希望を与えてくれるでしょう。

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