ゲピド族

ゲピド族：幻の王国とその興亡

ゲピド族は、東ゲルマン民族の一派であり、ゴート族から派生した部族として知られています。彼らは、アッティラ率いるフン族の支配から脱した後、独自の王国を築き、歴史の舞台にその名を刻みました。本稿では、ゲピド族の起源から王国建設、そして消滅までの歴史を辿ります。

起源と移動

ゲピド族に関する最古の記録は260年に遡り、ゴート族によるダキア侵略への参加が確認されています。6世紀の歴史家ヨルダネスによれば、ゲピド族の名は、スカンディナビアからの移動が遅れたことに由来するとされています。ゴート族がスカンディナビアから船で移動した際、一隻の船が遅れ、その「遅い」を意味する言葉「gepanta」が部族名になったという説があります。

当初、ゲピド族はヴィスワ川河口付近に居住していました。ヨルダネスは、彼らがヴィスワ川河口の島を「Gepedoios」（ゲピドの水地）と呼んでいたと記しています。その後、彼らは南へと移動を開始します。

王国の隆盛と衰退

4世紀、王ファスティダの時代に、ゲピド族はブルグント族を打ち破り、その領土の一部をゴート族に要求しましたが、戦いによって拒否されました。375年には、東ゴート族と共にフン族に征服され、忠実な臣下としてアッティラの軍団に加わりました。王アルダリックの指揮下、ゲピド族の戦士たちはカタラウヌムの戦い（451年）にも参戦しています。

アッティラの死後、ゲピド族はフン族に対して反旗を翻し、454年のネダオ川の戦いで勝利を収めました。この勝利によって、カルパティア山脈に定住地を確保し、ゲピド王国を築き上げました。しかし、東ゴート族との競争関係が再燃し、504年にはテオドリックによって定住地から追われることになります。

その後、ゲピド族はベオグラード周辺の肥沃な土地に定住し、537年には勢力が最大となりました。シルミウムを首都とするゲピド王国が成立し、王クニムンドは独自の金貨を鋳造しました。しかし、546年に東ローマ帝国がランゴバルド族と手を結び、ゲピド族をその地から追い出そうとしました。552年、ゲピド族はランゴバルド族のアルボイーノにアスフェルドの戦いで大敗を喫し、567年についにランゴバルド族に征服されました。

王国滅亡後

パウルス・ディアコヌスによれば、ゲピド族の多くはアルボイーノに従ってイタリアへ移住しましたが、残った者もいました。630年には、東ローマ帝国の軍団がアヴァール人の領土でゲピド族に遭遇し、3万人を捕虜にしたという記録があります。ソルノクのティサ川河畔での近年の発掘調査では、アヴァール風の衣装を着たゲピド族の貴族の墓が発見され、ゲルマン風の副葬品も出土しています。

考古学的発見

ルーマニア各地では、ゲピド族のネクロポリス（墓地遺跡）が発見されており、その文化や生活様式を知る手がかりとなっています。クルージュ県のVlahaやMiercurea Sibiuluiなどで発見されたネクロポリスからは、陶器、青銅器、武器などの副葬品が出土しています。また、トゥルダで発見されたゲルマン墓「Franziska」は、5世紀のものであり、ゲピド族の財宝も発見されています。

ゲピド族は、その短い歴史の中で、様々な民族との交流や戦いを経験し、独自の文化を築き上げました。彼らの王国は消滅しましたが、その足跡は考古学的発見や歴史記録を通じて、今もなお私たちに語りかけています。

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