パウルス・ディアコヌス

パウルス・ディアコヌス：ランゴバルド王国の歴史家

パウルス・ディアコヌス（720年頃 - 799年4月13日）は、ランゴバルド王国を舞台に活躍したベネディクト会修道士にして、歴史家、著述家、そして詩人でした。彼の名は、パウルス・カッシネンシス、パウルス・ウァルネフリドゥスなど、様々な形で記録に残されています。彼は、ランゴバルド王国の歴史を記した『ランゴバルドの歴史（Historia Langobardorum）』によって、後世に名を残すこととなりました。

生涯：貴族の血筋と王宮での教育

パウルスの家系は、ランゴバルド貴族と深い繋がりを持っていました。高祖父は、王アルボインに従ってイタリアへ入植し、フリウリ地方に土地を与えられた人物です。その後のアヴァール人の侵略により、パウルスの曾祖父の5人の息子がパンノニアに拉致されるという出来事もありました。パウルスの父であるウァルネフリトは、その5人のうちイタリアに戻った1人の子孫でした。

720年から735年の間に、おそらくフリウリ公国の貴族階級に生まれたパウルスは、パヴィアのランゴバルド王ラトキスの宮廷で恵まれた教育を受けました。ギリシア語の教師であるフラウィアヌスから学んだ彼は、その後、ラトキスの後継者であるデシデリウス王の秘書官を務めました。王女アーデルペルガを弟子に持つなど、王宮において重要な役割を担っていたことが分かります。

アーデルペルガがベネヴェント公アリキス2世と結婚した後、パウルスの才能はさらに開花します。アーデルペルガの要望に応え、彼は歴史書『ローマの歴史（Historia Romana）』を執筆しました。これは、エウトロピウスの『略史』を続編としており、彼の歴史家としての最初の作品となりました。

774年のパヴィア陥落の際には、ベネヴェント公国の宮廷にいた可能性があり、避難生活を送っていたのかもしれません。その後、コモ湖の修道院を経て、モンテ・カッシーノのベネディクト会修道院に身を寄せ、カール大帝と親交を深めました。弟がフランク王国に捕虜として連行された際には、カール大帝に嘆願書を提出するなど、積極的に外交にも関わっていました。

業績：多岐にわたる著作活動とカロリング・ルネサンスへの貢献

パウルスの文学的才能は、カール大帝の注目を集め、カロリング・ルネサンスに大きく貢献しました。彼の著作は多岐に渡り、『ランゴバルドの歴史』は最も重要な作品です。この未完成の歴史書は6巻からなり、モンテ・カッシーノで787年以降に執筆され、795年または796年まで続けられました。ランゴバルド族の起源からイタリア侵入、そして744年のリウトプランド王の死までを網羅し、ビザンツ帝国やフランク王国など周辺勢力との関係も詳細に記されています。ランゴバルドの視点から書かれたこの書物は、フランク人とランゴバルドの関係を理解する上で貴重な史料となっています。

『ランゴバルドの歴史』以外にも、『ローマの歴史』、『メス司教列伝（Liber de episcopis Mettensibus）』、多数の手紙、詩、碑文などを残しています。『ローマの歴史』はエウトロピウスの『略史』の続編として、アーデルペルガの依頼で執筆されました。また、カール大帝の依頼で説教集の編纂も行っています。これらの業績は、彼が歴史家、著述家、詩人としてどれほど多大な才能を持っていたのかを示すものです。

パウルスの著作は、中世ヨーロッパにおける歴史理解に多大な影響を与えました。特に『ランゴバルドの歴史』は、ランゴバルド王国研究において欠かせない一次史料であり、今日でも高い評価を受けています。彼の業績は、カロリング・ルネサンスという文化的な潮流において重要な役割を果たし、後世の歴史研究に多大な貢献をしました。796年から799年の間に亡くなったパウルス・ディアコヌスは、ランゴバルド王国という一時代を記録し、その記憶を未来へと繋いだ重要な人物と言えるでしょう。

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