ゲル (家屋)

ゲル：モンゴルの伝統的な移動式住居

ゲルは、遊牧生活を送るモンゴル高原の民によって使用される、円形の移動式住居です。この住居は、モンゴル語で「ゲル」と呼ばれ、他の言語では「パオ」や「ユルト」として知られています。特に日本では、中国語からなる「パオ」という名が一般的です。ユルトは、テュルク系の遊牧民が使用する名称でもあり、その形状はモンゴルのゲルとほとんど同じです。

構造と特徴

ゲルはその円形構造によって特徴づけられ、中心には二本の柱が立ち、その周りに放射状に梁が組まれています。これにヒツジの毛でできたフェルトや、その他の素材で覆われることで、居住空間としての機能が果たされています。壁は木材による骨組みで構成され、菱形の格子状になっており、接合部分はピン構造で折り畳むことが可能です。

冬はフェルトを二重にしたり、毛皮を用いることで防寒対策が施され、一方で夏は床部分をめくって風通しを良くすることができます。このように、ゲルは季節ごとの気候に適した作りになっています。

内部の利用

ゲルの内部は直径4～6メートルほどで、南向きにドアが設けられています。内部の配置は、入った際に左側が男性の居住空間、右側が女性の居住空間となっており、中央にはストーブを兼ねた炉が配置されています。この炉は調理にも用いられ、煙突は天井に開閉できる窓から出されます。

モンゴルの現代的なゲルには、太陽光パネルや衛星放送用のパラボラアンテナが取り付けられ、周囲の広大な草原でも通信が可能です。モンゴルでは2011年に携帯電話の普及率が100%を超え、スマートフォンも急速に普及しています。これにより、遊牧地でも銀行サービスや郵便配達が可能になり、現代の暮らしが徐々に浸透してきています。

社会構造とゲルの役割

ゲルは通常、夫婦を中心とした小家族が住むものですが、複数のゲルが集まって拡大家族を形成することもあります。このような集団は「アイル」と呼ばれ、地域の遊牧民同士の結びつきを強めます。アイマクと呼ばれる部族が存在し、古くは王侯貴族が住む大型のゲル集落も見受けられました。

19世紀以前、外モンゴルの活仏が最も大きなゲルに住み、多くの家族が従属していた記録があります。これにより、時代が進むにつれて都市化が進み、現在のウランバートルにもゲルが存在します。

ゲル地区の現状

現代では、ウランバートルのような都市でもゲルに住む人々がいます。これらのゲル地区は、元牧民の生活の場であり、必ずしも貧困を象徴するものではありません。家賃が手頃なため、低所得者層にも人気です。ただし、共用トイレや水道のない環境で生活することが一般的であり、冬の暖房として石炭が使用され、大気汚染の問題も抱えています。

ゲルの現代での利用

近年、日本でもモンゴル料理店の雰囲気を演出するためにゲルが設置されたり、ゲルを模したグランピング用のテントが作られたりしています。これにより、ゲルの存在が現代においても多様に生かされています。

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